大好きな彼は超能天気ボーイ
「先輩、今日はありがとうございました!」

家の前に着き、私は軽く一礼する。

「んーん。
梨乃ちゃんと話せて楽しかったし。」


「はい、それは私もですよ。
功に振られないよう、頑張ります!」

そう言ってから、私は先輩に背を向け家へ入ろうとする。


「梨乃待って。」

強い力で腕を引っ張られたかと思えば、気付いた時には先輩に抱きしめられていた。

梨乃…

いつもと違う呼び捨て。

功とは違う、甘い匂い。


「なんで梨乃はそんなに真っ直ぐなの?
功じゃなくて、
俺をいい加減好きになってよ。」

腕の力が強くなる。
抱きしめるというよりも、しがみつかれてる感じ。


「先輩……?」


「梨乃ちゃんのよわいとこに漬け込んで、こっちに気持ちが向けばいいと思ってた。
ごめん、俺ってこんなに弱くて最低なんだ。」


いつもと違う、真っ直ぐで、でも弱い声。


「先輩?私…なんて言ったらいいか…。」


「何にも…話さなくていい。
ただ、このままで…。ダメかな?」


「だ、ダメじゃ、ないです。
元気…出してください!私、先輩が悲しんでるの嫌です!だから…だから、」


先輩は私の首元に顔を埋め、呼吸までもが感じられる。


そっと…小刻みに震える背中に触れようとする。


ガチャ


ドアの開く音。そして



「ふーん、そういう事。」


聞き覚えのあるその声。でもそれは氷柱のように冷たくて…

体が離れ恐る恐るその声の主の方へ向く。


「……功。」


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