オオカミ回路 ♥️ うさぎスイッチ(処体験ガール再編集)
母さんは、しばらく目を逸らさずオレを見てた。


じっと……


何かを測るような目に、冷やかしや嘲笑はない。


“信用させろ”


と、強要しているようで、それでいて、懇願のような気もした。


――だから……、答えになってねぇんだって……


父さんは、“ダメだ”と、言った。

“愛しの彰人さん”に、盾ついてまで、母さんはなんで花美を庇うんだろう?


「……花美が剣菱がらみだってのは、もう知ってる」

「……そう」


それを聞いて、ほんの少し母さんの表情が揺らいだ。

母さんは“佐々”の嫁だ。

父さんとは大恋愛だったらしい。

年が離れてる分、母さんは父さんに恥を欠かせないように、とにかく“佐々”の家を一番に考えて支えてきた。

そばで見てきたから、わかってる。

オレがわかんないのは、その母さんが、いままで守ってきたものに盾ついてまで、なんで花美を大切にするかってことなんだよ。


「伊都……」

「……悪りぃ、出てってくんねぇ?朝イチで出かける。少し横になりたい」


何もかも、わかんねぇコトだらけだ。

でも、話してくれないんなら、今はもういい。

正直、花美のことで頭がいっぱいで、限界だ。

あとで、考える。


ドサリッ……!


とりあえずベッドの上にひっくり返ると、いつもより沈み込むような感覚がした。

カラダが重い。

まぶたも重い。

ただ、やっぱり眠気はこなかった。

さらに鉛のように重く沈みこんでいく気分の中で、

これからやることだけは、わかってる分だけ救われた。


――明るくなったら、花美をとっ捕まえに行く。


イヤだと、言っても聞かねえ。

抱きしめて……

とにかく、抱きしめて……


そしたら、なにもかも上手くいく。

そんな自信が、根拠も無くあった。


バタバタバタッ……


「――!?」

「……な…なに?…どうしたのかしら?」


急に廊下が騒がしくなった。

使用人の走る音が近づいてきて、部屋の前で止まる。

ドア越しに緊張した声が聞こえてきた。


「あ、あのっ……奥様、いらっしゃいますか?」

「いるわ。何?」

「……ご隠居様がおみえです」


――!?


「ジジイ?」


佐々家の前当主。

佐々士朗正宗(しろうまさむね)。

同じ敷地内の別邸に住んじゃいるけど、正月以来、会っちゃいない。


――何の用だ?
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