オオカミ回路 ♥️ うさぎスイッチ(処体験ガール再編集)
だるいカラダを無理やり起こすと、ベッドサイドに腰掛ける。

母さんはガウン姿だ。

とりあえずは、オレが出ないと仕方ねぇかと、立ち上がろうとした瞬間、


「伊都……」


今にも泣きそうな声が、頭上から降ってきた。


「伊都、もしかして花美ちゃん……もう、ここには来てくれないの?」

「……」


見上げた母親には、見覚えがある。

オレが最後にバカやったとき、病室で目覚めて、最初に見た母親の顔。

気の強い、この気高い母親に、こんなただの母親の表情をさせたことが情けなくて、

オレはガキの遊びから足を洗うことを決めたんだっけ……


――なのに、またコレかよ……


あれから、もう3年も経つのに。

成長しねえなぁ……オレも…



「……今日、連れてきてやっから、一緒に買い物に行く準備でもしてろよ……」

「……本当に?」

「…ああ」


なだめるように声をかけると、自然と母さんの口元が緩んだ。

父さんが結婚を押し切ったのもうなずける。

艶やかな笑顔。

つられてオレも笑うと、仲良さげに買い物してる、二人の姿が頭ん中に浮かぶ。


ワケわかんねぇままだけど、もういい。

実際どんな理由であれ、母さんが花美のことを本気で可愛がってんのは心強い。

佐々の跡取りったって、所詮オレには、まだ何の権限もないんだ。

今回だって、どうにもなんなくて結局ガキの遊びに片足つっこんだ。

母さんはゆっくり目を伏せると、続けざまに大きく深呼吸をする。


「わかった」


そして何かを覚悟したかのように、そう言い顔を引き締めた。

再び開いた目に影はない。


“任せたわよ”


そう言われてるような気がした。
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