オオカミ回路 ♥️ うさぎスイッチ(処体験ガール再編集)
応接室の上座に、ジジイ。

のんびり茶ぁすすってやがる。

使用人は、みんな飛び起きて大忙しだっつうの。

母さんも身支度中。


「年寄りが夜更かししてんじゃねぇよ。迷惑だろ!!」

「ああ、目が覚めちまった。年寄りは朝が早くてなぁ~」


わざとらしくあくびなんかしやがって、この狸ジジイ。

早すぎだろっ!

しかも、茶色の長着に、それより濃い目の茶の羽織。

今起きたばっかって格好じゃねぇじゃん。


現当主は父さんだ。

といっても、父さんは根っからの医者だし、経営とかまるで興味がない。

だから、佐々がやってるその他諸々の事業は、今でもジジイが仕切ってるようなもんだ。


「化粧なんぞせんでも、月乃さんはその名のごとく、ディアナのように美しいのになぁ~」

「息子の嫁に色目使ってんじゃねぇよ。……で?何の用だよ。父さん学会でいないぜ?」

「ああ知っとる。今日はお前に用があってきた」


オレが帰ってくんの、待ち構えてやがったな。

それで大体見当がついた。


「お前さん、剣菱の姫と親しいそうじゃあ、ないか」


――やっぱ剣菱優華のことか……


予想通りの展開に、オレはうんざりと、ため息をつく。

ひと揉めあったことが筒抜け、まったく耳ざとい。

さっさと、マジで隠居しろってんだ。

古めかしい家同士のいざこざなんか、知るかよっ!


『東の剣菱、西の佐々山』


誰がいつ言い出したのかは知らないが、耳にしたことのないやつは、ここら辺ではいないだろう。

剣菱家はそれこそ江戸以前から続く家柄で、昔なら大名、その縁から、今でも剣菱出身の政治家なんか結構いる。

一方、佐々は昭和。

戦後、その時代の波に乗って建築や、その資材調達やらの関係の貿易なんかで成り上がった家だ。

剣菱は、この街の東側に本家を構えてる。

港があるのもそっち側で、剣菱のひざ元で勝手をするなと、昔から港の使用権なんかで、よく剣菱ともめてたらしい。

佐々にとっちゃ、剣菱は目の上のこぶだったし、剣菱にしてみりゃ、ならず者の成金が傲岸不遜に、といったとこだろう。

実際、うちは流れ者や柄の悪い連中をまとめあげて、こき使ってきたんだからな、正直、上品な家系じゃねぇよ。


佐々の本家は西側。

やや丘陵の地形が多いこのあたりは、街を一望できる。

それで、語呂がいいのか『佐々山』。

こっちのほうが知られてて、佐々って聞いてオレん家ってわかるヤツのほうが少ない。


「別に親しくなんかねぇ。顔見知り程度のもんだよ」


あ~いう偉っそうなオンナ、苦手なんだよ。

なのに、ジジイときたら


「俺りゃぁ、回りくどいのは好かん……」


静かな口調で、唐突に殺気立つ。

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