オオカミ回路 ♥️ うさぎスイッチ(処体験ガール再編集)
「お前が剣菱の姫に手ぇ出したって聞いたんだがな?こりゃあ、年寄りの幻聴だったか?」


前言撤回だ。

年寄り?…冗談だろ。

ジジイが、ちょっと凄んだだけで部屋中の空気が変わる。

全身の毛が逆立つ。

チリチリと電気が走るみたいに、空気が痛てぇ。

まったく……

気分を落ち着けたくて戻ってみれば、コレだ。

いますぐ花美をとっ捕まえに行きたいのを、こっちは必死でこらえてるってのに……

これ以上、神経を逆なでんなよっ。


「ちょっとハナシしたぐらいで、孕ませたってか?ふざけんなっ」

「伊都、真面目な話しだ。そんならウサギ狩りだかいったが?餓鬼の遊び、さっさと引き下げんか」

「……ぁあっ?」

「剣菱の姫に縁談話が上がっとる。佐々が邪魔したとあっちゃ、ちと都合が悪い」

「優華に縁談?」


それがオレに何の関係がある?

ああ、でも成久には知らせてやろうか、あのオンナのこと気に入ってたみたいだった。

そう思って……


「お嬢と違うぞ?伊都、花美のほうぞ?」


ジジイの言葉に、


ざわり……


気味の悪い気配がした。



「なんぞ?……知らんかったか?」


夕暮れのオレンジ色の光に、キラキラと長い髪をなびかせて、

花美がいた。

目に焼きついて離れない。

不思議な存在感。

時々垣間見せる……


――違和感。


「お前、あれが、剣菱が生ませたどこぞの妾腹か、遠い親戚の娘と勘違いしとらんか?」


すらりと伸ばした背筋……

派手で軽そうなナリのクセに、

時々、妙に所作が綺麗だった……


「現当主、剣菱麗華(れいか)の孫娘。正真正銘の直系ぞ?」

「……っ」


足元がぐらつく感覚に酔う。

胃が熱くなる。


「何ぞ理由があってか知らん。剣菱の親族から外されて母方の姓を名乗っとるがの、分家筋の優華嬢とは格が違うぞ?“剣菱の姫”と、さっきから言っとろうが」



「お義父さん。こんな夜中に、はた迷惑もいいところです。お茶飲んだらさっさと帰ってくださいね」

「!!」


母さんが、いつの間にかオレのすぐ脇に腕組んで立っている。

部屋に入ってきたことに気づきもしなかった。

――マジかよ……

きっと、自分で考えてるより、今のジジイの発言は効いてる。
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