オオカミ回路 ♥️ うさぎスイッチ(処体験ガール再編集)

お母サマは大通りでタクシーを返すと、細い路地にどんどん入っていった。

その、もう1件のお店とやらは、たしかにタクシーでは来れそうもない。

数分歩いたところで、1階部分の壁だけ濃い茶褐色の木で外装されたビルの前で立ち止まると、

お母サマはその壁を触りながら何かを探し始めた。


「相変わらず、わっかりにくいわねぇ…え~っと、扉どこだったっけ…?ああ、あった」


ホントだ…。

近づいて見ると、うっすらと境界線がある。

壁と全く同じ素材でできた扉。

よく見ると、同じ色のドアノブもちゃんとあって、どうもそこが出入り口みたいだった。

隠れ家みたいなお店。


「司(ツカサ)ぁ~、いるんでしょ?ちょっと出てきてよ」


お母サマが当然のように店の中に入っていくと、バーカウンターの奥から30代くらいのオトコの人が顔を出した。

細身の長身の割に、服の上からでも鍛えているのがわかる、筋肉質のカラダ。


――頭に黒のターバン……


その人の鋭い目が、私を括目する…と、

同時に驚いたように呟いた。


「アサヒ…さん……?」


――え…?


今…、なんて言ったの?

アサヒって…、

どおいうコト?

呆然とする私を、そんなことお構いなしにお母サマが抱きしめて叫んだ。


「うちの嫁よっ!!かぁわいいでしょ~っ!!」

「え!?…違っ…」


バンッ!!!!


突然、割れるんじゃないかってくらいカウンターテーブルを両手で叩く音がして、私の否定の言葉はかき消されると、

同時に、司さんという人が頭を抱えて唸った。


「マジかぁああ~~~っ!!!!」

「どおよ~、うらやましいでしょ~!」

「アサヒさんの娘か~~っ!佐々のヤツが惚れるわけだ!!」


その名前を再び聞いて、やっぱり聞き間違いなんかじゃなかったんだと、

私は慌ててお母サマを見る。

お母サマは抱きしめる力をほんの少しだけ緩めて、私のほうに顔を向けると、

それは見事なウインクをしてみせた。


“霧里朝陽(キリサト アサヒ)”


私の、ママの名前……


そして再び、その司って人を見据える。

お母サマの声色が、艶を帯びた低いものに変わる。


「…司、あんたさぁ、新(アラタ)に借りがあったわよね?」


――どおして…、どおして!?


これは、パパの名前だ……
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