嘘つきお嬢様は、愛を希う


「……うん、風汰。……元気に、してた?」



いつでもどこでも眠そうで、喋ることさえままならない玲汰さんは俺にとって最も謎めいた人物だ。


正直、風汰がなぜここまで臆病になるのか分からない。


ただ二人の間に並々ならぬ事情があることだけは知っている。



「……元気だったよ。えっと、兄さんも変わらないね」



──どう接していいのか分からない。


前に風汰が、そう零していたことを思い出す。


玲汰さんと風汰は、正真正銘、実の兄弟だ。


ただしふたりが『兄弟』として過ごした時間は、もうほぼ記憶がないくらい幼い頃のほんの一時だけらしい。


どうもこの兄弟は別々の施設で育ち、弟である風汰が施設を出るまでは再会することもなかったとか。

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