暴君と魔女



そうして自分の腕時計を確認すると俺を見つめて頬笑み返す。



「あなたはこれからどうするの?すぐにホテル?」


「いえ、・・・・まぁ、せっかくなんで、この公園を散歩しようかと」


「あら、この公園心霊スポットなのよ。赤ちゃん抱いた女の人が歌いながら徘徊するってーーー」


「ただの主婦でしょうそれ」


「さぁ、聞いただけですもの」



そう言って悪戯に微笑む彼女に呆れたと苦笑いを向けるのに、そんなこと気にも留めず歩き出す姿。


秋光が俺に手を振ってくるのに振り返すと、振り返った桐子さんが俺を見つめて柔らかく笑った。





「・・・もう大丈夫」




「えっ?」




何の事だ?と疑問を返すのに、すぐに視線を外して歩きだした彼女がその後ろ姿をその場から消した。


意味が・・・分からん。


秋光に振っていた手が中途半端に空に浮き、それに気がついてゆっくりと下ろす。


なんだかすっきりとしない女神の去り際に溜め息をつけば白く立ち上がる自分の息。


それを追って空を見上げると、



「・・・・あ、」



寒いわけだ。


グレーの空からちらつく白い物に視線を奪われ、すぐに固まり大きく舞い落ちてくるそれを不動に見上げる。


こうしていると感覚が麻痺して自分が上に登っていくようだな。


そんな事を思ってその冷たさも忘れて立ち尽くして。


そして雪と一緒に舞い落ちてくる記憶。




「雪・・・・か」




見たいと・・・言っていたな。


嬉々として語った未来予想図や、この落ちてくる白い雪。


全てあの日描いたものとは違う未来でこの雪を見上げる。


馬鹿女・・・・、こんな冷たいだけの水の塊なんて何がいいんだ?


寒いし、濡れるし、不快なだけじゃないか。


そう思うのに・・・・。





でも、この白さはあの姿に良く似合う。





そう思って目蓋を閉じる。


久しぶりにしっかりと思い出したくなった姿。


今もはっきりと思いだせる姿に記憶を走らせ。


耳に残る声を頭の中にある機械で鳴り響かせる。


今も尚記憶鮮明に残る姿や声に、寒さも忘れて溺れて浸って。


その歌が終わりを響かせた時にゆっくりと目蓋を開き光りを取り入れた。


ほんの数分の記憶の回想。


だけどその間に白銀に染まった世界に息を吐いた。



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