暴君と魔女







「ーーーーーー四季っ・・・・・」







響いた声に体がざわめいた。







いつものように公園を散歩して、


いつものように歌を口ずさんで


いつものように帰るつもりだった。



同じ日常の繰り返し。



それでも些細な幸せを噛み締めて今も歌を歌っていたんだ。


この唄声が、遠い地で過ごしているあなたに僅かでも届けばと思いながら。


初雪と言えるそれを見上げ、いつかした約束を思い描く。


きっと実現しないその瞬間を夢見て、口の端が小さく上がった瞬間に響いたのが自分の名前。


驚き振り返れば息も止まる。




「・・・・望・・・さま・・・・」



この名を呼ぶのをどれだけ望んだか・・・。


それでも、


呼ぶ日が来なければいいと思うのも本当だった。





だって・・・・、





絡んだ懐かしい姿の眼差し。


だけども少し変わった?


鋭いけれど昔の様な刺々しさはなく、


相変わらず縛られたままなのだろうけれど前みたいな悲愴感は無い。


読める?


ううん、もう望様の未来は見えない。


それが示す事実は・・・・、



私が今も深く望様を愛しているってことなんだ。



当たり前だ。

じゃなきゃ・・・、





驚きに満ちた眼差しの引力に逆らえず、名前を呟いた後も金縛りのように不動になる。


心臓が驚くほど速くて、この雪降る冷気など忘れてしまいそうなくらい体が熱くなる。


なんでこんなところに?


そんな疑問の答えはおおよそ予想がついた。


桐子さんだ。


あの気紛れな女神さまの仕掛けた悪戯。


だって、私が望様の傍を離れ、その痕跡を綺麗に隠したのもあの女神さまの気紛れなんだから。


私の意思に女として同調し匿い、この日本に連れて来てくれた。


この先の生活にも不安を抱いていたのに、それをすべて補ってくれた女神さま。


そんな彼女のここにきての気紛れ。


まるで運命の輪を逆転させる様な行為に混乱してしまう。


お互いに名前を呼び合ったまま不動でどれくらいが立ったのだろう。


きっと数分。


その数分はお互いに巡る混乱や感情で脳内が占められていたのだろう。


それが最初に収まりを見せたのは望さまだったらしい。


ようやくその足を何か重い足かせでも付けている様に踏み出した瞬間に、私の金縛りもフッと解けた。


直後の脱兎。


腕に抱いたものをしっかりと包み込むと俊敏に反応し駆け出した。




「っ、四季っーーー」




私の反応にきっと望様の金縛りも完全に解けた。


焦った声を響かせた体はきっと、私を追って駆け始めている。


振り返らなくても気配で分かる。






ああ、まるで・・・・


あの夜の様ですね。



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