【完】キミさえいれば、なにもいらない。
何やら不穏な空気がするなと思ったら、いきなりそのいかつい男は、一ノ瀬くんの胸ぐらをバッと勢いよく掴んだ。


「お前がイチノセだろって聞いてんだよ!」


「は?え?いや、確かに俺は一ノ瀬だけど……。誰っすか?」


絡まれた一ノ瀬くん本人はかなり戸惑っている様子。


「誰っすか?じゃねぇよ!ふざけんな!てめぇ、うちの妹をたぶらかしやがって!」


「はぁっ!?妹?」


「そうだよ!お前がうちの妹に手ぇ出したんだろうが!!」


それを聞いて、あぁ、なるほどと思う。


つまり、プレイボーイの一ノ瀬くんが手を出した女の子が、このいかつい男の妹だったってわけか。


それで兄であるこの人が殴り込みに来たと。


ちょっと気の毒な気もするけれど、チャラチャラしてる本人が悪いわけだから自業自得だよね……。


そう思い、知らんぷりでその場を通り過ぎようとする私。


「ちょっ……。えっ、俺が?」


「そうだろうが!うちのエミリを泣かせたんだ!タダじゃおかねぇぞ!!」


……えっ。


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