冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない
平常心を取り戻そうと、ライラはスヴェンの胸から顔を上げ、視線を向ける。遠慮なく異なる色のふたつの瞳で彼を映した。

「あのね、スヴェン。昨日出かけたときに久しぶりに孤児院に行ったの」

 ルディガーから聞いていた話ではあるが、それは顔には出さない。ライラもスヴェンが知っているとは思わず話を続けた。

「私、この瞳の色が消えたら、グナーデンハオスに戻ろうと思っていたけど、やっぱりやめようと思って」

「なぜ?」

 感情を乗せずに尋ねる。ライラは元々この結婚がなければ孤児院に戻るつもりだと話していたはずだ。

 口元は緩めつつライラの言葉には少しだけ寂しさが混じる。

「あそこはもう、私のいない状態で生活が回っているから」

 ライラの妹分だったアルが、今は最年長者として子どもたちをまとめている。それをサポートするザック。皆、自分の役割を理解し、全うしている。

 そこにライラが戻るのは今できているものを壊す気がした。

「なら、どうするんだ?」

「うーん、どうしよう。とりあえず生まれた村に戻ろうかな」

 まるで明日の予定を告げるような軽い口調に、スヴェンはやや毒気を抜かれる。ライラはふふっと笑ってみせた。

「両親との記憶はほとんどないけど、あそこは両親と……伯母さんとの思い出もあるから。でも旅に出るのもいいかな。今まで人に会うのが怖くて、色々と見るのを拒否してきたから。その分たくさんのものをこの瞳に映したい」

 強く言いきり、ライラは目を大きく見開いて声を弾ませスヴェンを見た。

「馬に乗るのももっと練習して……それで探しに行くの!」

 なにを?と返す前にライラの唇が動く。
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