この想いが届かなくても、君だけを好きでいさせて。
「俺、もうすぐ死ぬんだな」


稔はそう漏らしたあと、目を閉じ唇を噛みしめる。
すると彼の目から涙がこぼれ落ちていく。


なにも返事ができなかった。

『違う』と言わなければ、彼の予想が的中していると認めているようなものなのに、とっさに嘘がつけない。

彼を見つめ、涙をこらえるので精いっぱい。


「なにしたんだろうな、俺。そんな罰を受けるほどひどいことをしたのかな……」


目を閉じたまま声を震わせる稔は、硬く拳を握る。

私はその手を握った。

稔は精いっぱい生きてきただけだよ。
罰なんて受ける必要ないんだよ。

そう言いたいのに、言葉が出てこない。


「里穂。俺のそばにいてくれないか? 俺……お前のことが好きなんだ。里穂と一緒に生きていたい」


稔の思いがけない言葉に思考がかたまる。

私を……好き?

ゆっくりと目を開いた彼と視線が絡まる。


「里穂。俺の生きる希望になってくれ」


握っていたはずの手が、握り返されていた。
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