たった7日間で恋人になる方法

映画は、最近話題の泣ける恋愛モノ。

正直、普段この手の映画は、DVDになったとしても絶対見ないのだけれど、今日は一応”恋人とのデート”設定なのだから、仕方がない。

当然の如く、内容が内容だけに、会場は見渡す限り恋人達だらけ。

薄暗いシアタールームの中で、本編が始まる前の予告が流れる数分間、既にこの映画を選んだことに後悔する。

『萌』

小声で呼ばれ、拓真君の方に少しだけ近づくと、耳元で”肩に触れてもいいか”と囁かれた。

確かに周りを見渡せば、恋人達は互いに身を寄せ合い、男性に肩を抱かれている女性も少なくない。

『今は…ダメ』
『恥ずかしい?』
『…映画を、集中して観たいから』
『なるほど…それもそうか』

意外にも、あっさりと引き下がる。

考えてみたら、この時間こそ拓真君に慣れる絶好のチャンスだったのかもしれないけれど、この暗闇の中で、肩を触れられたまま映画を見るなんて、正直耐えられそうにない。

それに、もっと本当のことを言えば、今日は会ってからずっと小さな緊張が続いていたので、せめて映画を見ている時間くらいは、その緊張から解放されたかったから。

予告が終わり、本編が始まるために、シアター内の照明が一段階、落とされる。
 
その瞬間、チラリと隣を見れば、銀縁眼鏡の奥にある瞳と目があった。

『何?』
『ううん、何でも』

すぐに視線を戻して、スクリーンに目を向けた。

…どうかしてる。

自分で”ダメ”と言ったくせに、何だか物足りない気がするなんて…。
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