たった7日間で恋人になる方法
『俺は如月とは違う』
また一歩、近づき反射的に一歩下がる。
『…君だけだよ?森野さん』
バーチャルな世界では、似たようなセリフを何度か言われたことがある。
リアルな世界で聞くと、なんて陳腐に聞こえてしまうのだろう。
伸びてきた手が私の髪に触れそうになり、咄嗟にそれをかわすと、いい加減付き合っていられないとばかりに、強引に牧村さんを避けて歩き出す。
『仕事中なので…すみません』
『そうだ、今度一緒に食事でもどうかな?』
『結構です』
『ああ、もちろん二人がマズかったら、誰か誘ってくれてもかまわない』
『行きませんから』
『そんな身構える必要ないだろう?もっとラフに考えてくれ』
歩き出した私の横を、ピタリと離れずに着いてくる。
こちらはハッキリと断っているというのに、何故か面白そうにしつこく誘い続ける。
廊下は突き当り、直ぐ左側には先ほど上がってきた、エレベーターホール。
どうやらまだ、拓真君は戻ってきていないようなので、その手前で立ち止まり、しばらくそこに留まって、彼を待つことにする。
『あれ?乗らないの?』
難なくホールに足を進めた牧村さんが、立ち止まってしまった私を振り返り、訪ねてくる。
『私はもう少しここで…お先にどうぞ』
同じく階下に降りるのだろうけれど、いくら一人で乗るのが怖くても、牧村さんと二人きりであのエレベーターに乗る気には到底なれない。