みだらな天使
「朔…」
私を抱きとめたまま、朔はたどたどしく私の名前を呼んだきり、一言も発さない。
「な、七海さんがね…連れて来てくれたの…」
体勢を整えながら、言い訳のようにそう呟いて再び朔を見上げようとすると…
10センチのハイヒールを履いているから、いつもより朔と顔が近くなって…
恥ずかしくて目を逸らそうとしたら、先に逸らしたのは朔の方だった。
「ちょ…反則だろ…」
その言葉の意味がわからず、朔に問いかけようとするも…
「やば…今、見ないで…」
赤くなった顔を隠すように、そっぽを向いてしまった。
…少しは大人っぽく見えたのかな?
だったら、嬉しい。
すると突然、朔が通りがかった会場のスタッフに何か話しかけた。
…なんだか、こんなに近くにいても目が合わないのが、ひどく寂しく感じる。
もっと、朔の顔を見たい。
そして…キスしたい……。
恋を知った女の欲望は、底なしだ。