みだらな天使
朔がルームキーをドアに差し込むと、カチャンと音がした。




先に部屋の中に入った朔が、振り返りながら左手を私の前に差し出した。





「…どうぞ、お嬢様。」




「お、お嬢様って…」




私はお嬢様なんてガラじゃない。




だけど今この時、この瞬間だけは…




このドレスと、このメイクと、この目の前の無駄にかっこいいこの男のおかげで、私もお嬢様になれるのかな。





差し出された手の平に、自分の手をそっと乗せる。





すると…




「キャッ…」




グイッと引っ張られたかと思えば、あっという間に朔の腕の中にいた。





そのままギュッと力強く、抱きしめられる。






朔の、トクントクンと鳴る心臓の音が、心地よい。



< 61 / 147 >

この作品をシェア

pagetop