だから何ですか?Ⅱ【Memory】
さっきの水しぶきの影響は髪まで。
水が滴る程濡れた髪をかき上げ後ろに流す姿は意図してでないのだろうけれど色気を孕んで思わず見惚れる。
そのまま、ザバリと水音を立てて身を上げた姿が浴槽の縁に座ると並んでいるボトルからシャンプーを掴んで俺に手招き。
それに従い近づいて、亜豆の膝に腕を組んで起き至近距離から見上げた。
そのタイミングを見計らっていた様に柔らかく髪に指を通しにくる感触と、シャワーのお湯の心地よさ。
「お疲れ様でした」
「あー・・・1つ大仕事終わったって達成感よ、今」
「それはそれは、褒め称えたいのと嫉妬とどちらを優先させて欲しいですか?」
「あはは、どっちも惜しいな。褒め称えて癒しながら嫉妬もくれ」
「貪欲な」
「お前にだけな」
落とされる亜豆らしい選択しにクスリと笑い、静かに泡立てられる頭には心地良さで目を閉じた。
反響しやすい浴室の中で頭を洗う微々たる音だけが鮮明。
体は温かく、更にはマッサージ効果大のシャンプーと言う満たされる様な時間。
亜豆も何か言うでもなく、俺も何かを言うでもない。
それでも微塵も居心地の悪さが無いのがまたいい。
その時間に唯々浸っていても良かったけれど、どうしても1つだけ浸りきれない部分がある。
観覧車でのデジャブの様にも感じると思いながら、
「・・・なぁ、」
「はい?」
「聞かねぇの?」
「何をですか?」
「小田の事。『どうなった?』とかさ、」
「・・・然程興味がないんですが?」
「お前、本気に真顔で悩んだ結論がそれかよ」
こっちとしてはさすがに口に出すのは迷った問いかけであったのに、問われ亜豆との温度差は相当らしい。
うーん。と思案する様に視線を泳がせてみた癖に、静かに戻った視線が語る結論はやはりドライ。