だから何ですか?Ⅱ【Memory】
何歩か歩んだタイミングに背後でタクシーのエンジン音が遠ざかり始め、そんな音に自分の歩みを緩めるでもなくコツコツと自宅への短い距離を詰めていたというのに。
コツ、コツ、・・コツ・・・。
そんな音の途切れであっただろうか。
何の気なしに自宅のマンションを見上げ、自分の部屋の前に視線を走らせた瞬間に視界に映りこんだ姿に足が止まった。
そんな私の姿に、相手が小さく笑った音がまるで目の前で響かされた様にクスリとはっきり聞こえた気がする。
手すりに身を預け、ひらりと片手を振ってくる姿に忌々しいと目を細めつつも止めていた歩みを再開させる。
特別歩調を乱すこともなくいつもの感覚で階段を上り進めて、1階2階。
そうして問題の自宅前、3階へと足を踏み上げれば待っていたとばかりの笑顔ににっこりと微笑まれ出迎えられる。
「おかえり、リーオ」
満面の懐っこい笑み。
この笑みに惹かれ絆され求めて縋る女性は大勢いるだろう。
私でなくとも大勢。
なのに、何故昔からこの男は私に固執するのか。
いや、昔ならまだしも今も尚が問題なのか。
今更昔の様にこうやって懐かれてもおいそれと応える筈がないというのに、まるで当然に受け入れられると信じて疑わないような姿をスルーして無言で扉に向かうと鍵を挿し込む。