だから何ですか?Ⅱ【Memory】
いつもは何を思ってこの空間を歩きぬけているのか。
今この瞬間は重苦しい枷を引きずって歩いている様にも感じる。
一歩一歩が迷いに満ちて、ただ重くて、それでも階段にその一歩を踏み込んだタイミング。
「あ・・・お疲れ様です」
いつもの感覚であるなら、事務的な挨拶でもこの凛と響く声音に安堵し癒されるような自分がいる。
なのに今日の今という瞬間はどこか耳に痛く入り込んで目を細めたくなる。
上から降ってきた声に視線を上げれば、どうやら外から中に戻ってきたらしい亜豆が体についた白い雪を払いながら、
「外!結構雪凄いですよ!ほら、見上げると感覚麻痺して自分が上に登ってく様な!」
会社の中では珍しくの無邪気な姿だ。
凄いんですよ!と興奮気味に扉を指さし口元には弧を浮かべて。
頬も鼻も赤い。
ドアを指さすその手の先だって。
『ガキかよ』
いつもの俺なら笑ってそう返す?
そうしたいのに・・・その笑みから逸らした視線は自分の足元へと静かに落ちた。