だから何ですか?Ⅱ【Memory】





そうだ、彼の事もほったらかし。


さすがに、せめてお礼の気持ちくらいは示したいのに。


助けてくれてありがとう。

お水やおにぎりをありがとう。

気を使って人っ気のないところまで連れ出してくれてありがとう。


いくら他人に不信感ある私だって彼に対しては感謝の感情の方が勝ってくる。


意図は分からない。


もしかしたら・・・かなり演技の上手い悪人なのかもしれない。


それでも今は『ありがとう』という言葉しか浮かんでこないのに・・・どうやって音にするんだっけ?


結局言葉は浮かべど音にはならず、抵抗もむなしく下りきってしまった目蓋。


さすがにこんな私は放置して行ってしまうだろう。


だってスーツも着ていたしこれから当然仕事だろう。


ああ、だったら・・・もう少し彼の姿を焼き付けておいても良かったかもしれない。


彼の煙草を吸う横姿は嫌いじゃない。


・・・・いや、むしろ・・・どこか好きだ。


そんな思考が最後。


すぐに睡魔に掻き消され、意識を深く深く自分の内側に沈められて思考の終幕。





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