だから何ですか?Ⅱ【Memory】

それでも、次の瞬間にはすっとこちらに伸びた手と、


「送られてきた写真を見せてみろ」

「あ、・・はい、すぐ」


不機嫌の纏はそうそう脱いではくれないらしい。

それでもスラリと伸びた指先と声音は協力的。

そんなチャンスをみすみすフイにする筈もなく、呆けるのさえ後回しに自分の携帯を差し出した。

受け取りそれに視線を落とす表情には特別な変化は見受けられない。

ただ、あの綺麗な緑に数秒その写真を焼き付けたかと思うと、直ぐに自分の携帯を取り出し何かササっと指先で操作しているのだ。

一体あの僅かな動きでどんな犯罪を?

なんて、ゴクリと生唾を飲んだ様なタイミングだ。

「・・・なかなかリッチな誘拐犯だ」

「・・・えっ?」

「帝都ホテルのセミスイート」

「はっ?」

「誘拐劇の舞台だ」

さらりと告げられた答えと、用済みだと言わんばかりに投げ返された携帯。

それを受け取りながら響かせた自分の声音の間抜けなこと。

だって、・・・えっ?


「一体どうやって。・・・と、いうか良かったんですか?犯罪めいた事をしてもらっ・・」


「してない」


「・・・へっ?」


「犯罪めいた事なんかするまでもない。まあ、少々の大道寺の名前フル活用にしたけどな」


「えっと・・・」


「亜豆が寝かされてるベッドのカバー。あの柄は帝都ホテルのセミスイートルームのみの物なんだよ。帝都ホテルは県内近郊で全部で3店舗。そのどのホテルに居るかを探るのは普通なら厄介だろうな。宿泊客のプライベート情報なんて、しかもセミスイートを取ってる上客の物なんてそう簡単に教えてくれない筈だ」


「・・・・えっと、つまり・・・そこで【大道寺の名前】ってやつを?」


「若い男女カップルが使ってるセミスイートはないか帝都に確認した。肩書きの威厳と圧力は凶器だよな。一言メールを送りつければナイフで脅されるかの如くサラッとゲロってくるんだから。・・・まあ、その時点でもう大道寺からの以後の信用は失ったけどな」


なんか・・・すげぇ恐い。


むっちゃ恐い。


利用して暴露させておいて信用しなくなったって・・・。


金持ち恐ぇぇぇ。


充分に犯罪めいた事なんじゃ?とあっけらかんとした表情を見つめながら思ってしまう。


それでも、そのおかげで情報を得たのだから余計な事は何も言うまい。


諸々の葛藤は飲みこんで何とか笑みを浮かべると『ありがとうございます』とお礼だけを口にすると。


「一つ聞いていいか?」


「・・・あ、はい」


「普通、誘拐された相談って言うのは警察にするものだろう?なのにそれを避けて自力で探そうと思ったのは何でだ?・・・まあ、自力じゃなくて他力だったけどな」



問いかけられた事に自分が答えるより早く響いたのは彼の追記。


それには『確かに』と苦笑いしか浮かべられない。


でも、その質問の理由なら簡潔に答えられる



「亜豆が信用してる奴だから」


「・・・・・」


「俺にとってはもの凄く気にいらないし、見つけたらぶん殴ってやる気満々な程腹立たしい奴だけど・・・でも、悪人じゃない」


「・・・・・」


「悪意の誘拐に思えなかったから。隠したいというより・・・見つけられるか試したいような、」


「・・・・・」


「違う・・・・おかしいかもだけど・・・なんか・・見つかりたがってるような。見つけろって挑発されてるような気がして」



どうしても、


亜豆を横取りしようとしている様に感じなくなってきているんだ。






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