だから何ですか?Ⅱ【Memory】
私はいい。
でも・・・この人は?
そんな結論が頭に浮かんで視点が彼に定まった。
捉えた姿はあっけらかんとまだ口元に笑みを浮かべてポケットから煙草を取り出している。
「やっと吸えるよ」
そんな事を言いながら立ち上がり、やはり気を使ってか離れて歩きだす後ろ姿を探るように見つめるも答えは見えず。
フード越しに頭を押さえて、まだどこかぼんやりとした思考のままベンチに手をつき座り直したタイミング。
カサリと触れたのは彼が置いたさっきの封筒だ。
私が起きた事で適当に仕舞った感が明確に中の書類がはみ出していて、決してそれを覗くつもりで手に取ったのではなく、はみ出している書類を綺麗に中に入れ込もうと思ったのだ。
なのに・・・、
「っ・・・」
垣間見た文字に不動になる。
そのまましまう筈だったそれを逆に引っ張り出して血の気が引く。
【入社試験のご案内】
日時 5月〇日 受付 8時から
そんな文面の記載された紙と会社名と。
日付はまさに今日の暦だ。
それを全て読み終わってから確かめる様に煙草を吹かす彼の後ろ姿を見つめてしまう。
新し気なスーツに鞄、言動もどこか地元の人間に感じられなかった。
何故あんな早朝にスーツでいたのか。
地方からこの試験の為に夜間バスか何かで来たのであれば理屈が通る。