だから何ですか?Ⅱ【Memory】
そして無情にも先程の彼が告げた現実が胸に突き刺さる。
11時と・・・言った。
私自身も彼の腕時計でそれを確認した。
この案内に記された指定時間は当に過ぎている。
なのに・・・・、
何、呑気に・・・煙草なんて吹かしているの?
「っ・・・」
自分でもこんな風に俊敏に動いたのは久しぶりで驚く。
ベンチにあった荷物を雑に掴みながら飛び降りて、そのまま駆け足で彼の後ろ姿に迫ると腕を掴んだ。
それには全くの予想外であったらしい彼が驚愕の眼差しでこちらを振り返り、咥えていた煙草が地面に落ちたのを捉えると勢いよく踏みつけ消火。
「えっ?・・・な、・・何?」
そんな間の抜けた声音と表情に無性に腹が立ってキツク睨み上げる。
まぁ、彼に見えていたかは定かでないけれど。
『何?』じゃ・・・ねぇだろ!!
お前が『何?』だよ、こんちくしょー!!と、心で詰ると、戸惑い全開の彼の手を引き駆け出した。
戸惑いながらも抵抗は見せずについてくる彼だけども、やはり口から発せられるのは『えっ?』『ちょっと、』『どこ行くんだよ』と困惑続き。
煩いっ、黙って走ってろ!
と思いながら彼を振り返る事はなく、ここ近年こんなに動かす事のなかった体が酸素不足だと悲鳴を上げるのを無視して街中を駆け抜ける。