だから何ですか?Ⅱ【Memory】
声に出して告げなくてはいけないのに、どうしてか出そうとすれば見えぬ力に引き止められるように、どうやって出すんだった?なんて理屈が先走る。
そんな間にどんどんと自分の印象悪く、向かう受付嬢の怪訝な反応に焦りも感じる。
違うのだ。
私はどんな印象でもよくて。と、後ろを振り返ってこの状況に呆然としている彼を指さし更に背後の看板を指さした。
必死に力強く交互に指させば、受付嬢も彼の装いで事は理解する。
納得したように『ああ』と零すくせに改めて作った笑みを見せると僅かに眉尻を下げお気の毒ですがと言いたげな雰囲気を醸し出し、
「申し訳ありませんが、試験開始時刻は過ぎております」
そんな決まりごとに則った返答が返されて『お引き取りください』とばかりに会釈まで。
知っている。
過ぎているのを承知でこうして来たのだ。
遅れたのだって理由があって、彼のせいではない。
なんとかそれを伝えたくて、食いつく様に受付のデスクに身を貼りつければ受け付け嬢の厄介者を見るような戸惑いが目に映る。
早く帰ってくれと言わんばかりの作り笑顔に情なんてない。
きっと頭ではこう思っている『遅れたそっちが悪い』と。