幸せの種


わたしは国語が苦手だ。

高橋先生によると、それは学園の子ども達に共通しているらしい。

小さい頃本にふれる機会がほとんどないまま、学園へ来た子ばかりだから。

言葉を知らない、文字を読むことがないまま大きくなってしまって、国語が苦手になる。



わたしはママと離れて暮らしていたから、ママのひざの上で絵本を読んでもらったことがない。

幼稚園や保育園にも行っていない。家には絵本などなかった。

あの青いカーテンがかかっている部屋には、小さなテレビが一台あった。

わたしはあのテレビから、言葉を学び、歌を聴かせてもらった。



わたしは学園に来て初めて、絵本の読み聞かせをしてもらった。

穂香先生に読んでもらう絵本が楽しくて、ひざの上があったかくて、安心できて。

穂香先生がわたしのママだったら、どんなにすてきだろうと、何度も想像した。


だけど穂香先生は私のママではなくて、高橋先生と結婚して二人の赤ちゃんを産んだ。

わたしは穂香先生の子どもに生まれたかった。

穂香先生の家族になりたかった。


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