幸せの種

下校の時間になった。

わたしは琉君の姿を探しながら、玄関に向かう。


……まだ、三年生は帰りの会が終わっていないみたい。

できるだけ偶然下校時間が重なったように装いたくて、わざとのんびり歩いていた。

すると。


「バスケ部です! 見学どうぞ~」

「陸上部見ていかない?」

「野球部マネージャー募集中!」


玄関の途中にある体育館前の通路で、部活の勧誘が始まっていた。

今は新入生をどれだけ入部させることができるかという、大事な時期らしい。


「ねー、そこの女子、マネージャーとか興味ない?」


大きな男の先輩二人に声をかけられた。

部活に入るつもりはない。空気になるためには、目立ってはいけない。

だけど、それをどう表現していいのか言葉に詰まる。

目立ちたくない。空気になりたい。そうだ。


「えっと……ごめんなさい。わたし、他にやることがあるので」

「習い事とか? 塾とか? それなら両立できるよ」

「いえ、わたし、できないんです……」


部活と空気になることの両立って、難しいと思うし。


「……なんで?」

「とにかく、すみませんっ!」


理由になっていないと思ったけれど、頑張って勧誘を断り、玄関へ向かった。

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