幸せの種
「よう。二年から勧誘されて断ってたけど、あれ、何部だった?」
後ろから聞こえた声は、琉君のもの。
ほっとしながら振り返って答える。
「え? あ、何部だったんだろう。ただ、マネージャーやらないかって聞かれたの」
「そっか。マネージャーね。じゃあきっと野球部かサッカー部あたりだろう」
「そうだったんだ」
興味なさそうに答えたわたしを見て、琉君が笑った。
「相変わらず『空気』になろうとしてるんだな」
「……うん。『空気』は部活に入りません」
「ははは。いいと思うけど? 空気みたいなマネージャーも」
そんな話をしながら靴を履き替え、外に出た。
目の前のグランドでは、いろんな部活の生徒がウォーミングアップを始めたり、道具を準備したりしている。
「実際のところ、千花は部活、やらないのか?」
「うん。入らない。だって、先生方に迷惑かけちゃうし、勉強教えてもらえる時間に帰って来られなくなるもん」
「……俺も同じだった。だから帰宅部。あ、俺達は『自宅』じゃないから帰宅部にも入れないのか」
そう言ってまた笑う琉君を見て、ここへ来てからわたし達は一度も『帰省』していないことに気が付いた。