幸せの種
あと一時間半で夕食だし、もうそろそろ穂香先生は帰る時間なのに。
ミーナちゃんは何が不満で、こんなにも脱走を繰り返すんだろう。
ミーナちゃんの気もちが全然わからない。
どうしてわたしを嫌うのか。
脱走したり悪いことをしたりするのがやめられないのか。
きっと何か理由があるのだろうけれど、ミーナちゃんの口からそれを聞くことは怖すぎてできない。
わたしは予定通り、学習室に向かった。
もう琉君が勉強を始めていて、隣にはいかにも頭が良さそうな学ボラさんがいる。
……琉君に、ミーナちゃんのことを話しておいた方がいいかな?
そう思ったけれど、勉強の邪魔をしてはいけないし、他の子に知られてはいけないから、メモを渡すことにした。
筆箱に入れてある小さな付箋紙に、こう書いた。
【ミーナちゃん、まだ帰ってきてない。先生方も探しに行ってると思う】
さりげなく琉君の斜め向かいに座り、英和辞書を借りる。
辞書を返すときに、その付箋をくっつけた。
付箋に気づいた琉君は、わたしを見て『わかった』とうなずいた。