幸せの種
「ミーナちゃんはどうして何回も脱走するのかな?」
疑問に思っていたことを、わたしは琉君に聞いてみた。
琉君にだったら、こんな風に何でも素直に聞けるのに。
「うーん、多分、ミーナには『帰れる場所』があるからじゃないか?」
「帰れる場所?」
「そ。確かミーナは休みの度に帰省してるし、俺達よりずっと後から学園に来た分だけ、地元に友達もいるだろう」
「なるほど。そういうことなんだね」
「俺達は正直なところ、家にいい思い出がないし、帰りたくても帰れないから、脱走しても居場所がない。でもミーナは帰りたいし、帰ったら自分の相手をしてくれる人がいるんだろう」
「それって、ちょっと羨ましいね」
わたしは帰っても人間として扱ってもらえない。
琉君はお父さんもお母さんもいなくなったと言っていた。
わたし達は【家族】というもののあたたかさを知らずにここへ来たから、どれだけ叱られても帰りたいと思えるほど、家族を恋しく思うミーナちゃんが羨ましいと思った。
「わかんないぞ。家がここにあるのに一緒に暮らせないってことは、ミーナにも相当な『何か』があったんだ」
琉君はそう言いながら、乱雑になった学習室の椅子を片付けていた。