枯れる事を知らない夢
第4章 悩みはちっぽけ
siten 朝霧 斗真

昔から金に困ったことも食いもんに欲しいもんに困ったことなんかも一度もなかった。そんな恵まれた家庭で育っている俺は両親の希望でもあったんだ。両親の言うことにはいつも従ってきて一度も逆らった事なんてなかったんだ。

だから勉強だってスポーツだってたくさん頑張ってきたんだ。友達の誘いすら断って学業ばかりをやっていた。だから気付いたら友達なんていなくなっていたんだ。周りは俺を"完璧な美しき塊"なんて言っていた。一度も嬉しいなんて思ったことはない。てか…完璧である自分が嫌だった。両親に縛られる人生に懲り懲りしていた。
だから俺は隣町に引っ越す事が決まった時に隣町にある高校に転校する事を切り出すと全力で反対された。

学校にもそれを言って両親に説得して貰おうと思ったけど学校側もあんなレベルの低い学校に俺を行かす事に断固否定する。俺はそれくらいの人生を送って見たいだけなのにな。
なんとか、両親を押し切って転校手続きが出来ることができた。両親にはじめて反抗したんだ。今まで人形であった俺が反抗したことに両親が参っていた。

それから一週間後に引越しを終わらせて俺は明記高校の制服を着て新しく通う荒鐘(あらがね)高等学校に足を踏み入れた。やはり明記なんかより全然ボロいし汚いけども俺はこーゆ普通をずっと望んでいたんだ。明日からここに通うとなると少し緊張するな。

ふと使われていないだろう教室を見つけて明日から使えせうと思い開けると先約がいた。ま、地味な女の子だし無視すればいいかと思いそいつの前に座り携帯をいじっていると。ずっと俺に熱い視線を送ってくる地味子。

「勃たねーぞ」

「…っ」

…おいおい。冗談で言ったのに赤くしてんじゃねーよ。こいつ絶対処女だな。つか、男すら知らねんだろうな。よく見たら目クリクリしてるし肌だってめっちゃ綺麗じゃん。俺は地味子のメガネを取り前髪をかきあげると言葉を失う。息を飲み込むとはこーゆ事なのだろうか。

こんな美しい顔の持ち主は初めて見た。こいつなんでこんな綺麗な顔してんのに隠してんだよ。自覚ないだけなのか?必死に前髪を直してメガネをかける。なんかそれすら可愛く見えてきた。これが一目惚れってやつ?

はじめて女を綺麗だと思った。なんだよ。明日から尚楽しみじゃねーかよ。こいつがいんなら面白いじゃんか。

「名前は?」

「…美華」

「俺明日からここに転校してくる朝霧 斗真」

美華ちゃんか…名前も綺麗だな。俺は自己紹介だけして空き教室を出る。学校を出て自分の顔に笑が浮かんでいるが自分でもわかる。こんなに楽しみなことって今まで会っただろうか?生まれて初めてかもしれない。しかも俺が女に対して楽しみなんて思うなんて。それにしても本当に綺麗だったな…美華ちゃんか…。

次の日職員室に行くと俺を不思議な目で見る奴らが沢山いた。ま、あの明記から来たんだからそうだよな。担任の先生に教室に案内される。この教師も冴えなそうだな。ま。こんな学校の教師やるくらいだから冴えないんだろうな。まともな教師いなそうだもんな。

教室に入ると案の定女子の悲鳴が上がる。
わざと明記樟南高等学院と言ってやるとみんなからのどよめきが面白かった。ほんと平凡な奴らって自分より身分が上のやつを抗うのが好きだよな。笑えるわ。

「…」

「いた」

俺は笑を浮かべながら教壇から下りて昨日の女の子美華ちゃんの前に立つ。美華ちゃんはびっくりした顔をして俺を見ていた。まさか同じクラスになるとは思わなかったし同い年だとも思わなかったよ。これって運命ってやつ?

「昨日ぶりだね美華ちゃん」

「…」

「あれ?昨日の今日で忘れちゃった?」

「…」

「もしもーし」

あれ?マジで忘れられてるやつ?それなら俺相当恥ずかしいしショックなんだけど。楽しみにして来た理由の子に忘れられるって…。でも、彼女が喋らない理由が次で全て理解した。

「朝霧お前誰に喋ってんだよ」

「え…美華ちゃんに」

「そんな奴うちのクラスいたっけ?」

「いないいない(笑)」

「…なるほどね」

理解理解。美華ちゃんは俺を忘れたんじゃなくてこいつらのせいで喋れないだけなんだな。しかもいない存在扱いかよ。やっぱりしょうもない奴らしかいないんだな。勉強のレベルが低いって頭のレベルも幼稚園児以下かよ。美華ちゃんもしかして去年から?ずっとこうなの?これって学校中からのいじめだよね?こんなの俺が親に言ったら学校ごと消せるよ?

俺は無理に先生に美華ちゃんの隣の席にしてもらい座る。美華ちゃんをずっと見ているといつの間にホームルームが終わっていて俺の視界にブスの顔が広がる。女共に囲まれる。

"かっこいいね"

"頭いいんだね"

"今度勉強教えてよ"

女子ってほんとに好きだよな。ちょっとレベル高いやつが目の前に現れると自分のものにしたがるよくの強さ。しょうもない質問ばかりしてきやがる。ここもこんなもか…。普通なんなんだろうな。つまんねーの。

1時間目がはじまり随分俺らと年変わんなそうな男が入ってきた。世間でいうイケメンだ。そんな奴がここの教師かよ。大丈夫かここの教師は。どうせあいつもさっきの担任と一緒なんだろうけどよ…

「…」

「…っ」

へぇー…面白いじゃん。あの先生は違うって訳ね。わかりやすく美華ちゃん見つめちゃってさ。あいつも美華ちゃんの素顔を知ってるに違いないな。小山先生って言うらしく随分女子に人気あんじゃん。そんなに美華ちゃん見てると羨まれるぞ。俺は小山先生に呼ばれたけど適当に返事をして美華ちゃんを見ていた。

チラっと小山先生を見ると俺を軽く睨んでいた。教師が生徒を睨んでいいのかよ。本当これから面白くなりそうじゃん。美華ちゃんといい小山先生といい。このクズ共が集まる学校といい。どう楽しませてくれんだから。

昼休みになり即座にお弁当を持ってどっかに行ってしまった美華ちゃん。俺は探しつつ購買に行く。一人だけ明記の制服を着ているら目立つ為購買に行くも道を開けてくれてすぐに買えることが出来て早速美華ちゃん探しを開始する。

「あ、空き教室だ」

そーいえば昨日美華ちゃんが空き教室でお弁当を食べているのを思い来た道を戻るとまた購買の前の人達が道を開けてくれる。なんかすげー…面白いんだけど。怯えてる犬かよ。別に俺はお前らを潰すためにここに来た訳じゃないから。

気にせず反対側の校舎にある空き教室にいくとそこには美華ちゃんと小山先生がいた。あの二人ってやっぱり何かあんだろうな。ちょっとイラつくな。

「守るって約束する」

「教師のくせに生徒に告白すか」

「朝霧…」

「美華ちゃんは俺が貰うよ」

俺は何を言ってんだよ。出会って一日半の子に貰うとか馬鹿じゃん。でも、少なくてもこの人にだけは取られたくない子だから。美華ちゃんは気にすることなく俺と小山先生をスルーして空き教室に入ってお弁当を食べている。俺と小山先生も一緒に空き教室に入る。

「小山っち」

「小山先生と呼べ」

なに。この人も面白いじゃん。そこらの教師とは意地が違いそうだね。それに何故そんなに大事そうに美華ちゃんを見つめるのかも気になるしな。この二人は普通の関係じゃないことは確かなんだろうな…。

美華ちゃんは写真を見て微笑んでいた。
写ってる子は美華ちゃんだろうな。その隣のイケメンは誰なんだろうか。彼氏か?小山先生も大切そうに見つめていた。

「だれそのイケメン」

と聞くと美華ちゃんも小山先生も答えてくれなかった。なんだよ。二人だけが知ってて俺は知らないってつまんねーの。それからお昼休みが終わり美華ちゃんは教室に戻っていった。

「授業遅れんぞ」

「さっきの写真だれ?美華ちゃんだよね?」

「お前が知る必要はない」

「うわっ…ケチだな」

「教室に戻れ」

小山っちは教えてくれることなく俺は渋々教室に戻り席につき美華ちゃんを見ていた。もし美華ちゃんがあの写真の本人ならなんでこんなんになってしまったのか知りたい。美華ちゃんに一体なにがあったの?俺が入り込むことが出来ない闇を抱えてるの?わかんないや…。

放課後美華ちゃんはそそくさと鞄を持たずにどっかに行ってしまった。俺は気にすることなく学校を出る。家に付いて勉強をしていると学校に今日の授業のノートを忘れた事に気付き仕方なく学校に取りに行くことにした。

面倒いと思いながらダラダラ歩いている学校につき玄関に入ると小山っちが走ってこっちに来ていた。小山っちが俺に気付き足を止める。何事かと思い理由を聞くと美華ちゃんが家に帰って来てないらしくでも、鞄は教室にあるらしく焦って探しているらしい。俺も一緒に探すといい探しているが美華ちゃんは見つからず校舎外を探していると門の外を歩く美華ちゃんを見つけて猛ダッシュでかけよる。


「「美華ちゃん!!」」

「…っ」

急に俺らに呼ばれた事に何事かと思ったのかびっくりしていた。何をしていたのか問いかけるも美華ちゃんは黙り込んでいた。小山っちが"帰るぞ"と腕を引くと異常に痛がる美華ちゃんを不思議に思い小山っちが袖をまくると言葉を奪われた。そこには酷い痣があり身体中にその痣が広がっていた。これは…最近の痣だ。もしかして放課後か?そそくさと教室を出て行った後にやられたのか?

俺は怒りに震える。美華ちゃんにこんな傷をつくった奴らが許せない。なんであの時追いかけなかったのか自分を責める。誰にやられたのか問いかけるも美華ちゃんは自分の身体なんかよりもお兄さんとの写真を盗まれたことに泣いていた。そうか…あの写真の人はお兄さんか。けど何故そんな泣くほど大事なんだよ。たかが兄との写真だろ。小山っちは理由を知っているからか深刻そうに美華ちゃんを支える。

とりあえずお母さんが心配してるらしく俺は小山っちと二人で美華ちゃんを支えて小山っちの車に乗せて家に向かう。車から美華ちゃんを下ろして家に入ると美華ちゃんのお母さんらしき人が美華ちゃんを抱きしめる。いいお母さんだな。奥から美人なお姉さんか出てきて美華ちゃんを見てホッとした顔をしていた。美華ちゃんをリビングに運んでソファに座らせる。その際に名前を聞かれて"朝霧"と答えると優しく"ありがとう"と言ってきた。

なんか色々と調子が狂う。美華ちゃんはなんでこんなに心配してくれる人達が側にいるのにそんな心を閉ざしてるんだよ。いいお母さんじゃんかよ。美華ちゃんは静香さんという人に手当をしてもらっていた。すると…静香さんが急に怒鳴り出してびっくりし駆け寄る。

「美華ちゃんも死んじゃったら…」

「静香やめとけ」

「でも…っ!」

「死ねたらどんだけ楽なんだろう」

パシン…

美華ちゃんのお母さんが美華ちゃんを叩いたことに俺らは唖然とする。あんなに優しそうなお母さんが怒るなんて想像がつかなかった。俺は泣きながら美華ちゃんを大事に思うお母さんを見て心が痛かった。俺の周りにそんな大人なんていないから…少し羨ましいかも。

美華ちゃんは"ごめんなさい"と謝っていた。きっと冗談でもそう口にしてしまうほど辛かったんだろうな。美華ちゃん凄いよ。ちゃんと謝れるんだからさ。俺なら絶対逃げてるよ現実からさ。
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