枯れる事を知らない夢
こいつ…俺を地味にからかってやがるな。俺が胸に秘めていることを見透かすような目で見てきやがる。俺は朝霧から目を逸らしグランドに目をやる。

「俺はただの美華ちゃんの兄のダチだよ」

「へぇーそれだけであんなに大事にする?」

「あいつの兄が大事にした妹だからな」

「何か…過去形っすね」

「…死んだんだよ。美華ちゃんの兄は」

「え…っ」

「2年前にな…ガンで」

「…っ」

「美華ちゃんがあーなったのはそれが原因だ」

「…っ」

「あの兄妹は妬けるくらい仲良くてよ。南斗もいつも美華ちゃん優先だったんだよ。遊びに誘ってもいつも妹と遊ぶっていって帰るしよ。どんだけブラコンだよってな」

「そうなんだ」

「美華ちゃんもそんな兄が大好きでな。そんな最愛な兄が亡くなって心を失ったんだよ」

「…」

きっと想像以上の重い話で朝霧も戸惑ってるに違いないよな。好きな女がこんな闇を抱えてんだからなよ。でも、好きなら美華ちゃん以上の覚悟を抱えて支えてやらねーとお前が壊れちまうぞ朝霧。美華ちゃんにも真実を告げるのはまだ先かもしれないけど昔の美華ちゃんを照り戻して貰わなくちゃな。

朝霧は暗い顔をして考え事をしていた。
きっとお前の悩み事なんてちっぽけに感じてんだろうな。本気で好きなら負けんなよ朝霧。

放課後になり俺は朝霧を連れて美華ちゃんの家に行くと部屋のベランダからこっちを見ている美華ちゃんがいた。"美華ちゃん元気?"なんて大声あげる朝霧の頭を叩き黙らせる。近所迷惑だろうがクソガキが。少しすると美華ちゃんが玄関のドアを開けてくれて家に上がらせてくれた。お母さんが"夕食食べて行って"と言うから遠慮なく頂く事になりそれまで美華ちゃんの部屋に行くことになった。男二人が女の子の部屋に入っていいもんなのか?

美華ちゃんは空を見ながら昔の南斗との思い出を俺と朝霧に語ってくれた。美華ちゃんは本当に南斗に大事にされて育ったんだもんな。美華ちゃんにとって南斗が何より大事な存在でそれ以上はきっと現れないと思っているに違いない。俺もそうだと思ってるから。朝霧は深刻そうに話を真面目に聞いていた。

「ありがとう」

美華ちゃんからそんな言葉が聞けるなんて思いもしなくて心から嬉しかった。きっと美華ちゃんは変わりはじめているのかもしれないな。
それからお母さんに呼ばれてリビングに降りるとお父さんがいて挨拶をすると懐かしがって沢山昔話をしてくれた。それを知らない朝霧は拗ねていたのでからかってやると言い合いになりお母さんとお父さんが"犬と猫"と言って面白がっていた。別に俺こいつ嫌いじゃないけど憎たらしいんだよな。高校生ならもっと可愛げがあればいいのによ。

さすがに夜遅くなり俺は朝霧を家に送り届けた。楽しかったのか満足そうな顔で帰っていった。俺も少し昔話ができて楽しかったかな。

美華ちゃんも楽しそうにしてたから満足だな。
最初はあんなに喋りもしなかったのに今では笑ってくれるようにまでなって俺も諦めなかったかいが少しあったのかもしれないな。やっぱり美華ちゃんは笑ってるのが似合う子だよ。まだまだ取り戻すには時間が必要だけどもきっと大丈夫だろ。あの子は強い子だからな。南斗の妹なだけあってちゃんとしてるしな…。

南斗…ちゃんと約束は果たすから少し時間をくれよ。お前との最後の約束絶対叶えてやる。だから空から俺らを見守っててくれよ?

果たしたその時…俺はあいつから離れないとな。
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