THE FOOL
それにしても・・・。
そんなに凄い人だったのかとあの姿を思い出す。
思い出しても浮かぶのは本を読みふけるところとか、壁にぶち当たるところとか、茜さんに猫の様に扱われていたところとか。
全然凄そうに見えない。
そんな結論を打ち出しつつ、それでもあの一瞬を最後に思い出し納得した。
茜さんを壁に押し付け威圧したシーン。
確かにあの瞬間はそのほかの雰囲気を相殺する空気を見せた彼。
あの瞬間に、彼は間違いなく茜さんと同じ血筋なのだと思ってしまったんだ。
だってあの狂気を孕む目は茜さんもよくする物と同じだった。
あの眼で見られると・・・、私は逆らう事が出来ないんだ。
昨日の夜の事も再び浮上してしまい、色っぽい茜さんの表情を必死で頭から追い出そうとして清掃場所の扉を開ける。
そうしてパッと顔をあげれば今必死で追い出そうとしていた雰囲気を捉え思考の停止。
いや、その類似品だ。
自分の掴んだドアが会議室のものだと気がついたのは思考が働いてから。
まるで記憶の回想の様に昨日と同じ場所で同じように座り本を開いている姿。
それでも記憶との相違。
今日は・・・・サングラスしてないんだ。
そう思った彼の目は裸眼のグリーンで私を見つめる。
それにも若干の違和感を覚えたのは、
彼は昨日のまま聞きかじった様な姿なら、
その視線は当然本に落ちているのが普通だと思ったから。
なのにしっかりと絡む視線に気圧されながら部屋に入ると頭を下げてみる。
「・・・こんにちは」
礼儀として響かせた声に彼がじっと私を見つめる。
微笑むでもない真顔のそれにやっぱり嫌われているのではないかと緊張して、それでも仕事優先だとその存在を気にしながらワゴンに手を伸ばすと。
「こんにちは」
返された声に再び視線を移せば、相変わらずまっすぐ見つめてくる姿が軽く頭を下げてくる。
あれ?
嫌われてない?
その反応に一瞬考え込んで、それでも反応を返された事に軽い歓喜。
この際この表情は気にしない事にしようと机を拭き始めながら更に声をかけてみる。
「・・・・今日は、読まないんですか?」
一応その手にある本に視線を移しそれを示して言葉を弾けば、私を見つめたまま簡単に返事を返す美麗な姿。