THE FOOL




「読み終わった」


「じゃあ、新しい本に?」


「ううん、まだ・・・」



よくわからない返事だと思いながらも、その否定の反応が可愛らしいと小さく笑う。


『ううん』って、小さな子供みたい。


そう言えば言っていたっけ、この人の探求心は子供の様なものだって。


茜さんの言葉を思い出しながら机を拭いて、それによって近づいていく距離。


その間も私に注がれているグリーンを感じながら、次なる話題は無いかと思案する。




「・・・・ねぇ、茜ちゃんの【恋人】なの?」



響いたのは雛華さんの声で、問われた質問に見事動揺して視線を絡める。


振り返った彼といえばまったく表情は変わらず私を見ていて、僅かに照れながらもそれに肯定を返した。



「い、一応・・・・そうみたいです」


「ふーん、」



単純な返事。


その響きに何が含まれているのか。


そしてまた沈黙になる空間に響く机を拭く音と、刺さるグリーンアイの視線。


なんだろう?


なんでそんな私を見るんでしょうか?


どこか気まずい空気に焦ってみても悲しいかな休むことなく働いた手がその距離を縮めてしまう。


その姿を露骨に避けて掃除するのも失礼かと、緊張も最高潮にすぐ近くまでその距離を縮めた。



「・・・失礼します」



そう言って机の上にあった足を降ろしてほしいと暗に伝えると、静かにそれを下げる姿。


それに安堵し手に持っている小説がどんなものかチラリと視線を走らせるけれど、カバーのかかったそれの内容は読みとれず。


キュキュッと音を響かせ雛華さんの前の部分を拭いていく。






ハラリ・・・。







背中に感じる自分の髪の感触。


驚いて振り返れば雛華さんの指先に絡め取られている自分の髪の毛。


そして今さっき感じた感覚を再度与えるように指先から離されたそれが背中に落ちた。


い、悪戯?


その行動の意味を計れず。


無言で見つめてしまう私にその言葉が返される。




「・・・・待ってた」


「・・・・はっ?」


「・・・待ってたんだ」


「・・・・・あ、茜さんをですか?」



思い当たる人物を見つけその名前を響かせれば、すぐに返ってくるのは首を横に振る姿。




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