目を閉じたら、別れてください。

ゲホゲホと咳をしながら、電話をかけた。

「あのさ、私って友達少ないじゃん。だからスピーチよろしく」
『お前なあ。二か月ぶりに連絡してきたと思ったらああああ』

中学時代からの腐れ縁の友達に電話をかけた。友達は六人。職場の人は7人。
同じ会社だし新郎父が会社の社長だから席順がカオスだ。
新郎父なら一番後ろの席なのに、社長となったら一番前。
友達も、互いに10人も呼ばないならテーブル一つにまとめなきゃいけない。
そして、たまに連絡して飲むぐらいの友達にも連絡しないといけないのだ。


『てか、相手ってお見合いして別れた人?』
「うん。別れたつもりはなくて海外赴任中は遠恋だったつもりらしくて」

これは、二人で考え口裏を合わせるようにした内容。
二人して他人に嘘をつくなんて滑稽で笑ってしまう。

「でさ、沙也加には、っと」
ゴホゴホと咳をしながらスケジュール帳を引っ張ってくる。

『風邪?』
「うん。窓開けて寝たら寝冷えしてさあ」
『結婚式前って無理なダイエットするから体調崩しやすいらしいじゃん。無理すんなよ』
「ありがとー。でさ、二次会でもさ」

咳が止まらなかったが、時間は止まってくれるわけじゃない。
ベッドサイドのテーブルには、もう住所を印刷した招待状が出来上がっている。
次期社長であられる彼の招待客は、200人を超える。

『ねえ、咳が酷くて聞こえないんだけど』

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