目を閉じたら、別れてください。
「え、誰が?」
「桃花の婚約者よ。神山商事の御曹司っていうから偉そうなやつかとおもったら、優しいし紳士的だし。格好いいけど威張ってないし」
「……」
私の前では偉そうだし、威張ってるし、紳士ではなく口が悪く甘ったれだから肯定したくない。
肯定しないかわりに、けほっと小さく咳がこぼれた。
「そう? 笹山は裏表ないバカだけど、進歩さんは裏表ある計算高い男だよ」
「あはは。笹山さんに酷い」
「本当よ。私が叔父さんの姪で、おじいちゃんの孫じゃなかったらこの結婚はなかった縁だもの」
「それはきっかけでしょ? 今はちゃんとラブラブじゃん」
沙也加はそう笑い飛ばしてくれた。
私もそう笑い飛ばそうと思っていたのに。
少女漫画大好きな脳では、それで納得できないのかなんというか。
「おーい。井上、神山―、トイレ長くないかあ」
「お、酔っ払いの笹山さんが起きた」
長いどころが、たった今トイレに向かったばっかなのに、何を言い出すのかあきれてしまった。
お酒に飲まれて暴言吐いたり暴れるよりはまだましだけど、酔って人に介抱されるまで飲む人自体嫌いだ。
「笹山、水でも飲んでソファ席で座ってなさい」
「大丈夫ー。ここで待ってる」
ずるずると、トイレの前の壁に倒れ込んでしまった。