目を閉じたら、別れてください。
「全く」
笹山を起こせるのは、酔っていない進歩さんだけだろう。
メニュー表を真剣に見ている沙也加を確認してから、トイレを覗く。
二つ個室があり、化粧スペースもあって綺麗だしトイレもよさそうだ。
「おい、酔っぱらってださくねえか。歳を考えろよ」
「うー……すまん。うえ」
……うそお。入口から男子トイレの声がはっきり聞こえる。
これは逆に言えば、女子トイレの声も丸聞こえってことか。
二次会始まる前にちゃんと注意してもらっておこう。
「てか、神山の恋人、淡々としてるけど綺麗な人だね」
「ああ。お前も覚えてるだろ。大学が同じで」
「知ってる。口には出してないけど、彼女が飲み会に現れたらお前も来てたじゃん」
――それって。
まるで進歩さんが大学時代から私のことを狙っていたみたいな言い方だ。
そんな都合のいい話は信じられない。
「あの時、S大のミスS女と付き合ってたけど、あっちはお前のスペック目当てだったじゃん。彼女は」
「桃花はスペックとかじゃねえよ。恋愛しないお見合いの方が楽って理由。俺も親が文句ない相手で、会社に損がない相手ってだけ」