目を閉じたら、別れてください。


「お前さあ、それって」
「いいから。さっさと吐いてすっきりしろよ。もう一人の幹事が、メニューとか決めてくれてたぞ」
「うう。すまん。まだ気分がよくない」
大きなため息まで聞こえてきてしまった。
そしてトイレから出てきた進歩さんは、固まっていた私を見て目を見開いていた。

……だが彼は、トイレの話し声が筒抜けだという真実はまだ知らない。

「笹山もトイレに突っ込んでくれる? そこに座り込んでるの」
「ああ、って。おい、笹山、寝るなよ」

ぺちぺちと頬を数回叩かれた笹山が、ふらふらしながら立ち上がってトイレの中へ向かう。
一度、進歩さんが振り返ったので、よろしくねっと微笑んでおいた。

聞いたか聞いてないかは私にはどうでもいい。
今さら何も止まる理由はないから。

「おい、桃花」

笹山を井上さんに押し付けてきたのだろう進歩さんが戻ってきた。
その表情は少しだけ焦っていた。

「――何?」
「お前、聞こえてたのか」

駆け引きなしの直球な問いに、私も素直に微笑みながら答える。

「聞こえていたけど、別に何も問題ない話じゃないの」

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