目を閉じたら、別れてください。
咳が止まらなくなった。
まるでこの恋は、風邪のようだった。
処方箋はもらえなかった。不治の病ではないのに病名を名付けようとしたら相手に気づかれたくなくて嘘で症状を誤魔化すような、所謂偽りだらけの恋だった。
「桃花、聞いてる? 咳、大丈夫?」
「うん。大丈夫……っ 続けて」
口元をハンカチで抑えつつ、頷く。
彼が、笹山の前でいい人ぶっているのを知っている。
私の友達で幹事でもある沙也加の前で爽やかで好青年ぶるのも知ってる。
だから、ここで私を問い詰めることもないのも知ってる。
はず、だった。
「えっと沙也加さんだっけ。ちょっとこいつ、きつそうだから外の空気吸わせてきていい?」
「え、あ、はい。あの、最近、この子具合は悪くないのに咳ばっかしてて」
腕を掴まれ、カウンターの席から降ろされる私を見つつ沙也加が言う。
「精神的に何かきついんじゃないのかな、って思うんです」
じわりと視界がにじんでいくのが、もう隠せなかった。