目を閉じたら、別れてください。
「ひえ?」
「シャッター閉めちゃいます? 裏口から逃げちゃいます? 先に焼き鳥屋行きます?」
「お、落ち着いて」
落ち着いてとか言いながら私も机の下に隠れてしまった。
「失礼。また来てしまった」
「わ、お疲れ様です。神山さん何か忘れ物でもありました?」
今まで焼き鳥の話しでだらしなく涎を垂らしていた彼女の姿はない。舌足らずなおっとりした口調で誤魔化すのが上手いのは尊敬する。
「笹山が本社の方の資料も欲しいって言われたんだけど、持ち出し禁止だったから連絡したんだが繋がらなくて。――仕事終わりに通りかかったから寄ってみたんだけど」
「笹山なら今、お客様とお部屋の見学で回っています。待たれますか?」
泰城ちゃんの完璧な営業スマイルに、きっと奴は待つだろう。
笹山、はやく帰ってこい。19時ぎりぎりになったら焼き鳥の串をお前の鼻に突きさすぞ。
「あ、センパイなら裏で書類のデータ整理してますよ。呼びますか?」
泰城ちゃんも人が悪い。今、貴方の足元のテーブルの下にいるではありませんか。
「呼んでほしいけど、彼女は理由をあれこれつけて逃げ出すだろうからいいよ。忙しいだろうし」
取って付けたような言い訳を並べつつも、それも嘘だと分かる。
彼からは余裕が感じられる。忙しいなんて思っていないのに、許している感じが甚だしい。
「笹山待つ間、ここら辺のマンション見せてくれるかな」