目を閉じたら、別れてください。

「桃花に会わなかったら、あんな後輩みたいな聡明な子でも良かったかもな」

ぽつりと零した後、小さくトンっと鳴らした。

「まあ嘘だけど」
「……」
「海外赴任で頭冷やそうと思ってただけ。嫌いにはなれなかった」


キイっとカウンターのドアが開く音がして、目の前に彼の足が映った。
にげられない。

「……どうして分かったの」
「桃花が事務所の中にいるのが見えたから入ったのに、入った瞬間いねえから」

クスクス笑う声。
貴方ってそんな風に柔らかい声で笑う人だったっけ。

どんなふうな顔で笑っているのか気になった。

いつものちょっと冷たい感じのクールな貴方ではなくて、少し唇を上げて微笑むだけの貴方ではなくて、嘘で固まっていないほうの貴方。

少しだけ、この磨かれて私の顔が映りこみそうな革靴の足を見上げたくなった。


「あと、香水。あんたの香水の匂いは、車の中で漂ってくるのが好きだったから。
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