目を閉じたら、別れてください。

「……なんで私だったんだろう」
「そりゃあセンパイ、凛としてて綺麗だからじゃないですか?」
「お世辞すぎ」

私なんて平凡だし、顔は十人並みだし、口は悪いし短気だし面倒くさがりだし。
泰城ちゃんの方がよっぽど可愛くて頭の回転早いから、会話だってさっきみたいに盛り上がるだろうしね。

「それを聞くためにも、金曜は会わないと駄目ですね」
「やっぱそうなるよね。まずは今日は散々逃げたけど、ちゃんと謝るよ」

謝るから殴って終わりにしてほしい。
私はもう、きらきらした恋愛はこりごりだ。

あんなにはしゃいで振り回して、挙句にケガして。
私にはあの期間は、黒歴史に近い。

「先輩の、そんな潔いとことか付き合っていて清々しいですけどね、私は」
「私のおごりだからってそんなに気を使わなくていいのよ。ほら、追加は?」

ビールを飲み干したまま話を聞いてくれていた彼女に、メニューを渡す。
今夜はほどほどに飲もう。そして金曜に備えるしかない。

「えっと、じゃあ鳥皮とつくねと、あとベーコンと枝豆とぉ」
「チョイスが女子力無くて、本当好き」

お酒のつまみ感覚で頼んでいるのもいい。
仕事中は面倒な客は私に、ここぞとばかりに後輩面を押し出してくるくせにね。

「……泰城ちゃん、彼氏は?」
「いますよぉ。もちろんです。というか、家に帰ったらお腹を空かせたダーリン待ってます」
「リア充かあ。末永く爆発してください」
< 28 / 208 >

この作品をシェア

pagetop