目を閉じたら、別れてください。
「ねえ、あの人って神山部長の婚約者だった人じゃない?」
直球な言葉が背中にぶつかってきた。
本社の最寄り駅で叔父さんを待っている時だ。
携帯をテーブルに置いて、新巻の漫画をカバーして読んでいた時だ。
駅の中に、可愛いカフェができていて入ってみると、外国で人気のドーナツ専門店で、ベイクドチーズのドーナツという、ドーナツがゲシュタルト崩壊しそうなものを注文し彼のメールの返事も待っていた。
窓際の一番奥の一人席で、誰にも気づかれないと思っていたのに、振り返れない。
「婚約者だったってことは今は違うの?」
「なんか、海外転勤になった途端別れて、そのせいで左遷されて今は田舎で事務してるとか」
田舎だけど都内からは移動してない。自分で異動届したんだし。
好き勝手言い過ぎだ。尾ひれ背びれ、水に揺蕩うフンまで付いてそうな噂だ。
「だって、神山さん恋人がいたのに、社長に反対されて別れさせられて渋々お見合いしたって噂なんだよ」
「え、うそ!」
「モデルしてる子だったんだけど、下着みたいな服で雑誌の表紙飾ったのが原因で大反対だったとか。確か大学の同級生だったんだって」