きらきら
そんな思いを巡らせているうちに、目的地の京都へと着いた。


駅から人の流れに押し出されるように町へ出てきた二人は、呆けた様子で立ちつくす。


これまで写真やテレビでさんざん見てきたはずなのに、やはり京都という町はどこか神秘的な雰囲気を持っていて、きっとこの街は海に隔てられた日本という国の中でも、より一層に隔絶された世界なのだと肌で感じた。

  
こんな景色を見せられて、どうして写真を撮らないでいられるだろうか。わたしはカメラを軽く手で掴みながら、その独特な町並みのなかを進んでいく。草賀は何を言わなくとも、黙って後をついてきてくれる。決してわたしの世界を邪魔することなく、ほんのり包み込むような距離を保ったまま。出会ってまだ半年ほどしか経たないというのに、草賀はわたしが求めているものを十二分に理解している、そうして自然に求めていることをしてくれる。


そこから二人とも黙ったまま二時間ほど、撮影のために京都の町を歩きまわった。写真を撮るのに夢中だったわたしは、そういえば草賀がカメラを向けている姿をまだ見ていないことに気が付く。


気になって振りかえってみると、慌てた様子で草賀がカメラを下ろした。そのままにっこりとこちらへ微笑む。何を撮っていたのだろう。とりあえず彼も撮影しているようなので、わたしはもう一度写真を撮るのに集中した。
 

結局フィルムを二本も使い切って、夕暮れが近づいてきたところで撮影を終えた。


橙色が少しずつ空を埋め尽くしていく。


わたしと草賀は京都の余韻を楽しみつつ、駅のほうへと歩いていた。


急に寒さを感じて、わたしは腕をさする。吐いた息が白くなっていた。あまり普段は服装には気を使わないのだが――いつもは機能重視でセーターの上に軽く一枚羽織り、さらにダウンジャケットという防寒着ばかり着ている――やはり草賀の前であまりみっともない格好もできないので、いつもより自分の中ではオシャレをしてきたつもりだ。おかげで寒いのが苦手なのに薄着するハメになってしまった。どうして他の女の子たちはあんなに短いスカートだとか、胸元の開いた服をこんな寒い時期に着られるのだろうか。


「大丈夫? 寒い?」


隣で歩いていた草賀が心配して声をかけてきた。


わたしは無理して笑って否定したがったが、あまりにも寒すぎて少し、と答えてしまった。情けない。


すると、草賀は自分が着ていたコートを脱ぐとわたしに羽織わせた。下にはいつものあの白いセーターを着ていた。


「これで少しはましかな」


彼の貸してくれたコートはかなり温かかった、まだ彼の体温の名残りがある。


「そんな悪いよ。草賀くんだって寒いでしょ?」


「俺は小さい頃、新潟に住んでいたから寒いのには強いんだ。それに、ついてきてもらった湯川が風邪をひいたりしたら申し訳ないし」


そう言った彼は少しも寒そうな素振りを見せずに、ただマフラーを一度巻きなおすだけでまた歩き始めてしまった。わたしがついてきていないのに気づくと、ほら早くといったような顔つきでこちらへ振り返った。わたしは慌てて彼の後を追う。


いつもより鼓動が強く、そして早くなっていく、胸の中がざわついている、少し息苦しいほどに。


もう京都の街並みはわたしの瞳には映らない。映るのは彼の大きな背中と、マフラーにかかっている彼のえりあしだけだ。


わたしは、彼に恋していた。





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