きらきら
年が明け二月に入り、ようやっと世間が落ち着いて来た頃に、草賀からの誘いがあった。
なんでも今度のショートフィルムのコンクール用の映像を撮るために京都へ行きたいのだが、一人ではどうも寂しいからついて来てほしいとのことだった。
知り合って以来、何度も近場には一緒に撮影しに行ったことはあったけれど、そのうちのほとんどはわたしのカメラを彼に貸して、二人の写真を比べて批評したり、アングルについて語りあったりするばかりで、彼の映像撮影に付き合ったことは一度もなかった。
というのも、彼が自分の撮影は時間がかかりすぎるから、わたしには迷惑になると言って毎度断るからなのだ。わたしはどれだけ時間が長くても気にはしないのだが、あまりしつこく言うのもおかしいので――それに、わたしに気を使っていると望む映像が撮りづらいということもあっただろうし。彼は口にしなかったが――それ以来、わたしからは彼の撮影に口を出すことはなかった。
だからこそ、今回の彼の誘いには心底驚いた。
新幹線で行く日帰りの旅、目的は京都の町並みということで、旅費も彼が負担してくれるということなので、わたしはすぐに行くと返事をした。
そうして今、二人で京都へ向かう電車に揺られている。隣の席に座っている草賀は窓から熱心に外の風景を眺めている。
少し前のわたしなら、彼と同じように情熱の籠った視線を外に向けていただろうに、今のわたしの瞳には彼の姿しか映らない。
自分でも馬鹿らしくなってくるほどに、わたしは彼に強く惹かれている。この感情が何なのか、わたしにはよくわからない。ただ、彼の行く末にわたしが求める写真のすべてがあるような予感が、漠然とわたしの心の中に浮かんでいた。
「湯川、聞いてる?」
草賀に声をかけられて、慌てて頭の中の考えを奥へと押しやる。
「な、なに?」
「湯川はさ、止まっている風景の写真を撮るのが上手いだろ? あれ、アングルとかどうやって決めてるんだ? 俺、いつも動いているものしか映像で撮ってこなかったから、あんまりそういうのわからなくてさ。湯川ならわかるかなって」
そう尋ねてくる草賀のまなざしがあまりに真剣で、思わずどきりとしてしまう。鼓動が早くなっているのがわかる、顔まで赤くなっているのではないかと心配になる。ああ、もう、落ち着いてよ。いつも二人で写真を撮りに行く時はこんなことなかったのに、やはり誘われたことに緊張しているのだろうか。それもそうか、今していることは傍から見れば立派なデート、考えてみれば人生で初めてのデートでもある。そう思うと余計に恥ずかしくなってしまって、顔から火が噴き出そうだった。
無意識に草賀の顔をじっと見つめてしまう。あまりにわたしが見つめるものだから、草賀は困ったような顔を浮かべた。
「どうかした?」
「……ううん、なんでもない。それより、一度草賀くんのビデオカメラじゃなくて、わたしのカメラでアングルを決めてみたらどうかな? もしかしたら何かきっかけが掴めるかもしれないし」
「なるほど。確かにずっとビデオカメラ覗いているだけより、ずっと視野が広まりそうかも。やっぱり湯川と一緒に来てよかったよ」
そう言ってにっこり微笑む草賀は、わたしを釘付けにした。もっといろんな話がしたい。カメラとか写真とか、そういう話じゃなくてもっと普通の、たとえば好きな食べ物とか、ほんとしょうもないことで盛り上がって、楽しい時を共有できるような二人になりたい。そんな望みが心を埋め尽くそうとしているのに、彼を前にすると何も話せなくなってしまう臆病な自分。草賀はこの旅行のことをどう思っているのだろう。やっぱりただの撮影旅行としか思っていないのだろうか。それとも、わたしと同じようにデートと思ってくれているだろうか。
彼の中のわたしはどんな存在なのだろう。
なんでも今度のショートフィルムのコンクール用の映像を撮るために京都へ行きたいのだが、一人ではどうも寂しいからついて来てほしいとのことだった。
知り合って以来、何度も近場には一緒に撮影しに行ったことはあったけれど、そのうちのほとんどはわたしのカメラを彼に貸して、二人の写真を比べて批評したり、アングルについて語りあったりするばかりで、彼の映像撮影に付き合ったことは一度もなかった。
というのも、彼が自分の撮影は時間がかかりすぎるから、わたしには迷惑になると言って毎度断るからなのだ。わたしはどれだけ時間が長くても気にはしないのだが、あまりしつこく言うのもおかしいので――それに、わたしに気を使っていると望む映像が撮りづらいということもあっただろうし。彼は口にしなかったが――それ以来、わたしからは彼の撮影に口を出すことはなかった。
だからこそ、今回の彼の誘いには心底驚いた。
新幹線で行く日帰りの旅、目的は京都の町並みということで、旅費も彼が負担してくれるということなので、わたしはすぐに行くと返事をした。
そうして今、二人で京都へ向かう電車に揺られている。隣の席に座っている草賀は窓から熱心に外の風景を眺めている。
少し前のわたしなら、彼と同じように情熱の籠った視線を外に向けていただろうに、今のわたしの瞳には彼の姿しか映らない。
自分でも馬鹿らしくなってくるほどに、わたしは彼に強く惹かれている。この感情が何なのか、わたしにはよくわからない。ただ、彼の行く末にわたしが求める写真のすべてがあるような予感が、漠然とわたしの心の中に浮かんでいた。
「湯川、聞いてる?」
草賀に声をかけられて、慌てて頭の中の考えを奥へと押しやる。
「な、なに?」
「湯川はさ、止まっている風景の写真を撮るのが上手いだろ? あれ、アングルとかどうやって決めてるんだ? 俺、いつも動いているものしか映像で撮ってこなかったから、あんまりそういうのわからなくてさ。湯川ならわかるかなって」
そう尋ねてくる草賀のまなざしがあまりに真剣で、思わずどきりとしてしまう。鼓動が早くなっているのがわかる、顔まで赤くなっているのではないかと心配になる。ああ、もう、落ち着いてよ。いつも二人で写真を撮りに行く時はこんなことなかったのに、やはり誘われたことに緊張しているのだろうか。それもそうか、今していることは傍から見れば立派なデート、考えてみれば人生で初めてのデートでもある。そう思うと余計に恥ずかしくなってしまって、顔から火が噴き出そうだった。
無意識に草賀の顔をじっと見つめてしまう。あまりにわたしが見つめるものだから、草賀は困ったような顔を浮かべた。
「どうかした?」
「……ううん、なんでもない。それより、一度草賀くんのビデオカメラじゃなくて、わたしのカメラでアングルを決めてみたらどうかな? もしかしたら何かきっかけが掴めるかもしれないし」
「なるほど。確かにずっとビデオカメラ覗いているだけより、ずっと視野が広まりそうかも。やっぱり湯川と一緒に来てよかったよ」
そう言ってにっこり微笑む草賀は、わたしを釘付けにした。もっといろんな話がしたい。カメラとか写真とか、そういう話じゃなくてもっと普通の、たとえば好きな食べ物とか、ほんとしょうもないことで盛り上がって、楽しい時を共有できるような二人になりたい。そんな望みが心を埋め尽くそうとしているのに、彼を前にすると何も話せなくなってしまう臆病な自分。草賀はこの旅行のことをどう思っているのだろう。やっぱりただの撮影旅行としか思っていないのだろうか。それとも、わたしと同じようにデートと思ってくれているだろうか。
彼の中のわたしはどんな存在なのだろう。