きらきら
京都の撮影旅行から一か月が経っていた。
放課後、いつものように写真部の部室で雑誌を読んでいた。周りに他の生徒は居ない。そういえば撮影も兼ねて、部員全員で公園かどこかへ遊びに行こうと誘われていたことを思い出した。確かその日が今日だったはずだ。
写真部では定期的にこういうことがあるのだが、わたしはいつもそれを断っていた。口下手なわたしが一緒に行っても、結局一人で写真を撮ることになるだろうし、わたしは撮りたい時に撮影に行きたいのだ。
いつでも自分の思い通りの写真が撮れるわけではない。スポーツ選手のように、写真を撮るのにだってコンディションというものがある。他のみんなはあまり理解してくれないが。
部室で一人過ごすことには慣れていた。寂しいと思ったことは一度もない。ただ、目は先ほどから映像研究部が――草賀がいつも作業に使う机のほうに向けられていた。今日は部室へ来ないのだろうか。そう思って落胆する自分が居る。
初めての恋心にわたしは戸惑っていた。恋をしているわたしは、今までの一人好きだった自分をすべて否定しているのだ。彼と一緒に過ごしたい。そんな羨望だけが心を埋め尽くしている。
はぁ、と思わずため息が出た。
今日は帰ろうかな。
そう思って雑誌を置いたときだ。ガラガラと勢いよく部室の扉が開いた。廊下からすこし春の陽気の帯びた風が部室に流れ込んでくる。
「見ろよ湯川! この前京都で撮ったショートフィルムが雑誌に載ったんだよ! 佳作だったけど、やっと俺のフィルムが認められたんだ!」
そう言って草賀は片手に雑誌を持って部室に入ってくる。
彼の姿を見たわたしは、一瞬動けなくなっていた。あまりに突然なことに驚いたせいか、口を開けたままただ呆然として彼を見つめ、傍から見ればよっぽど間抜けな顔をしていたにちがいない。
「うそ――」
やっと出た言葉がこれだった。
「嘘じゃないって。ほらっ」
彼はしおりを挟んでいた雑誌のページを開くと、わたしに見せてきた。
どうやらその雑誌で行っていたフィルムコンクールのようだった。この雑誌自体、映像関係では有名で、審査員も有名人ばかりらしい。ただ、応募者数が多いからきっと入賞なんてできないだろう。それでも審査員の人たちに自分のフィルムを見てもらえるだけで嬉しいからと、彼が言っていたのを覚えている。
彼が開いているページに目を注いだ。そのページにはコンクールに応募されて賞を撮った作品が載っており、フィルムの一部であろう写真と共に、評論家のコメントが書き添えられている。大賞を撮った作品はドキュメンタリー映像だったらしい。一人の青年の視点から臨場感溢れる能動的な作品であったと、添えられたコメントに書かれている。
そのまま佳作のところまで目をやって、そこでわたしは目を見開いた。
佳作、草賀優太と書かれた傍に載せられている写真には、京都でカメラを構えているわたしの姿が映っていた。
そこでやっとわたしがあの時、草賀がカメラを構えている姿を見ていない理由に気がついた。
彼はわたしがカメラを構えているときに、わたしを撮っていたのだ。
それではわたしが気づけるわけがない。その時、わたしの全神経はファインダーに注がれているのだから。
しかし、わたしはその写真を見ながら、妙な感覚が押し寄せてくるのを感じていた。草賀の映像が持つその独特の雰囲気のせいか、それともまた別の理由かもしれないが、わたしはそれが自分自身であると信じられなかった。まるで、別人のようにさえ思えるのだ。
思わず息を飲んだ。草賀の才能の片鱗に、初めて触れたような気がした。あの楓の木の映像を見たときとはまた違った感動が、胸の奥から湧き出てくる。
「すごいじゃん草賀くん、おめで――」
やっとのことで出てきた祝福の言葉を、わたしは飲んでしまった。
放課後、いつものように写真部の部室で雑誌を読んでいた。周りに他の生徒は居ない。そういえば撮影も兼ねて、部員全員で公園かどこかへ遊びに行こうと誘われていたことを思い出した。確かその日が今日だったはずだ。
写真部では定期的にこういうことがあるのだが、わたしはいつもそれを断っていた。口下手なわたしが一緒に行っても、結局一人で写真を撮ることになるだろうし、わたしは撮りたい時に撮影に行きたいのだ。
いつでも自分の思い通りの写真が撮れるわけではない。スポーツ選手のように、写真を撮るのにだってコンディションというものがある。他のみんなはあまり理解してくれないが。
部室で一人過ごすことには慣れていた。寂しいと思ったことは一度もない。ただ、目は先ほどから映像研究部が――草賀がいつも作業に使う机のほうに向けられていた。今日は部室へ来ないのだろうか。そう思って落胆する自分が居る。
初めての恋心にわたしは戸惑っていた。恋をしているわたしは、今までの一人好きだった自分をすべて否定しているのだ。彼と一緒に過ごしたい。そんな羨望だけが心を埋め尽くしている。
はぁ、と思わずため息が出た。
今日は帰ろうかな。
そう思って雑誌を置いたときだ。ガラガラと勢いよく部室の扉が開いた。廊下からすこし春の陽気の帯びた風が部室に流れ込んでくる。
「見ろよ湯川! この前京都で撮ったショートフィルムが雑誌に載ったんだよ! 佳作だったけど、やっと俺のフィルムが認められたんだ!」
そう言って草賀は片手に雑誌を持って部室に入ってくる。
彼の姿を見たわたしは、一瞬動けなくなっていた。あまりに突然なことに驚いたせいか、口を開けたままただ呆然として彼を見つめ、傍から見ればよっぽど間抜けな顔をしていたにちがいない。
「うそ――」
やっと出た言葉がこれだった。
「嘘じゃないって。ほらっ」
彼はしおりを挟んでいた雑誌のページを開くと、わたしに見せてきた。
どうやらその雑誌で行っていたフィルムコンクールのようだった。この雑誌自体、映像関係では有名で、審査員も有名人ばかりらしい。ただ、応募者数が多いからきっと入賞なんてできないだろう。それでも審査員の人たちに自分のフィルムを見てもらえるだけで嬉しいからと、彼が言っていたのを覚えている。
彼が開いているページに目を注いだ。そのページにはコンクールに応募されて賞を撮った作品が載っており、フィルムの一部であろう写真と共に、評論家のコメントが書き添えられている。大賞を撮った作品はドキュメンタリー映像だったらしい。一人の青年の視点から臨場感溢れる能動的な作品であったと、添えられたコメントに書かれている。
そのまま佳作のところまで目をやって、そこでわたしは目を見開いた。
佳作、草賀優太と書かれた傍に載せられている写真には、京都でカメラを構えているわたしの姿が映っていた。
そこでやっとわたしがあの時、草賀がカメラを構えている姿を見ていない理由に気がついた。
彼はわたしがカメラを構えているときに、わたしを撮っていたのだ。
それではわたしが気づけるわけがない。その時、わたしの全神経はファインダーに注がれているのだから。
しかし、わたしはその写真を見ながら、妙な感覚が押し寄せてくるのを感じていた。草賀の映像が持つその独特の雰囲気のせいか、それともまた別の理由かもしれないが、わたしはそれが自分自身であると信じられなかった。まるで、別人のようにさえ思えるのだ。
思わず息を飲んだ。草賀の才能の片鱗に、初めて触れたような気がした。あの楓の木の映像を見たときとはまた違った感動が、胸の奥から湧き出てくる。
「すごいじゃん草賀くん、おめで――」
やっとのことで出てきた祝福の言葉を、わたしは飲んでしまった。