きらきら
草賀に抱きしめられたのだ。


それはあまりに唐突で、わたしの脳はきっとその瞬間、息をすることさえ忘れていた。


彼の男子らしい腕がわたしの身体を包んでいて、その腕に触れた背中から彼の温かさが伝わってくる。


「ありがとう湯川……本当に、ありがとう」


そう言った彼の声は、いつもの彼の声とは比べ物にならないほど小さく、弱々しく、ぽんと叩いたら泣き出してしまいそうな、そんな声。


その声があまりに愛おしくて、わたしは自然と彼のことを抱きしめていた。


小さく揺れる彼の肩やその仕草から、彼がどれほどこの賞に喜びを感じているかが痛いほど伝わってくる。彼が今までにどれだけ努力していたのかが、痛いほど伝わってくる。


先に泣いたのはわたしのほうだった。


泣いてはいけないと、喜ぶのは彼のほうだとわかっているのに、涙が止まらなかった。それでも、草賀に気付かれないように、声を潜めて静かに涙だけを流した。頬に伝う滴の冷たさでわたしがひどく熱を帯びていることに気づく。


ふと彼の腕の力が弱まるのを感じた。


「ああっごめん、湯川っ」


感動が少し治まって我に返ったのか、草賀は慌てたようにわたしから離れようとする。


それに反応して思わずわたしは彼の背中に回していた腕の力を強めて、彼の身体を引き戻してしまった。


さっきより一層身体が近くに来る。


これ以上近づけば、鼓動さえも相手に伝わってしまいそうだった。



「ゆ、湯川っ?」


彼は困惑した様子でわたしの顔を見ようと抱きしめられた状態で首を横へと回したが、これほど密着した状態では互いの顔を見ることはできない。それにわたしは顔を見られないように反対側へと顔を反らしていたのだ。


「もう少し、このままでいて……」


えっ、と漏らした彼の声が耳に届く。心の奥底から今まで抑えていた感情が膨れ上がって、わたしはぎゅっと彼の背中を掴んだ。彼を離さなかったのは涙を見られたくなかったわけじゃない。彼に言いたい言葉が、伝えたい気持ちがあった。


一呼吸おいて、わずかな物音でかき消されてしまいそうなくらい小さな声で「ねぇ、聞いて」と草賀に語りかけた。


心臓の鼓動は速まり続ける。それなのに何故か世界は悠然としていて、時計の針がまるで感覚を忘れたかのようにゆっくりと進んでいる。


この感情はファインダーに収まることはない。


こうして抱き合う姿は写真になることはないけれど、わたしはこの時、たしかなコンマ一秒の芸術を感じていた。


互いの後ろ姿はきっと、どんな風景よりも愛おしい。





 おわり


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