亘さんは世渡り上手


■■■


体育祭――。


俺は……憂鬱だった。


テントもない、影もない。直射日光に息が苦しくなるほど体力を奪われて、まだ自分の競技も始まっていないのにヘトヘトだった。



「理人、大丈夫?」



猫を被った谷口が俺の顔を覗き込んでくる。


昨日はよく眠れなかった。それも原因のひとつだろう。


告白の返事を考えていた。谷口には亘さんを言い訳に使えばいいけど、問題は亘さんだ。亘さんには……どう、言えばいいのかわからない。


これは、昨日一日使った結果だ。結果、何も思い浮かばなかった。


だって、俺は亘さんと友達でいたいんだ。でも告白を断るなんてことをしたら、絶対に友達でなんていられない。


そんな亘さんはというと、一瞬で勝負が決まる五十メートル走を楽々と一位でゴールしていた。


……亘さん、運動もできるなんて聞いてないんだけど。



「っ……り、理人! こまめに水分補給したほうがいいよ!」



そう言って、谷口は俺の水筒を突き出してくる。


たぶん、俺が亘さんのことを気にしているのが嫌なんだろう。谷口も亘さんの足の速さに驚いてるみたいだ。

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