亘さんは世渡り上手
俺は水筒を受け取った。ぐい、と一口、冷えた麦茶を喉に通す。頭がキンと冷えた。
「亘さん、すごい!」
「おめでとう亘さん!」
亘さんがこっちへ戻ってきたころには、そんな歓声がどこからともなく聞こえてくる。亘さんは「はい」と満足そうな表情で頷いていた。
笑わないんだから仕方ないけど、それは余裕の表情にしか見えなかった。だから、横で谷口が若干悔しそうに唇を結んでいるのを見て同情する。まぁ……汗ひとつかいてないしなぁ。
思わずこぼれた笑みに呆れが混じる。まずいとか、そういう問題じゃなく、亘さんが勝ちそうだ……。いっそ誰も一位にならないことを祈ろうと思っていたのに。
亘さんは俺の方へ進むと、目の前でしゃがんできた。シートの上にあぐらを掻いていた俺は、その距離の近さに体が仰け反る。
後十センチ動きでもしたら、鼻がぶつかりそうだ。
「和泉くん、見ててくれましたか?」
「う、うん、見てた、けど……?」
なんなんだ。早く離れてくれ。
無表情であることが、逆に素の顔が整っていることを再認識させられて困る。大きな目、筋の通った鼻、柔らかそうな唇。肌は脱色のない黒髪のせいで余計白く映ってしまう。