亘さんは世渡り上手


じっと見つめ合うなんてもちろん恥ずかしいけど、ここで逸らしてしまえば負けてしまう気がした。


亘さんに見つめられるのはこれで何回目だろうか。今まではあんなに怖かったのに、今は――。



「わっ、亘さん! 私、トイレ行きたいから付いてきてくれない!?」



谷口が強引に俺と亘さんを引き剥がした。



「はい、わかりました」



そう返事する亘さんに、俺はほっと胸を撫で下ろす。助かった……。


二人で歩いていく後ろ姿を見る。高く結ばれた亘さんのポニーテールは、赤いハチマキと一緒にゆらゆらと揺れていた。


俺の他にも亘さんを見ている男がいることに気付いて、慌てて目を逸らす。なんとなく、同じ方向を見ているのが嫌だった。


ま、まぁ、亘さん、可愛いしな。無表情だから取っ付きにくそうに見えるけど、俺と友達になりたいなんて言うし。わりと物怖じしないというか、人懐っこい、よな……。


――あぁ、まずい。


俺は、亘さんの良いところを知ってしまった。

< 69 / 291 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop