亘さんは世渡り上手
じっと見つめ合うなんてもちろん恥ずかしいけど、ここで逸らしてしまえば負けてしまう気がした。
亘さんに見つめられるのはこれで何回目だろうか。今まではあんなに怖かったのに、今は――。
「わっ、亘さん! 私、トイレ行きたいから付いてきてくれない!?」
谷口が強引に俺と亘さんを引き剥がした。
「はい、わかりました」
そう返事する亘さんに、俺はほっと胸を撫で下ろす。助かった……。
二人で歩いていく後ろ姿を見る。高く結ばれた亘さんのポニーテールは、赤いハチマキと一緒にゆらゆらと揺れていた。
俺の他にも亘さんを見ている男がいることに気付いて、慌てて目を逸らす。なんとなく、同じ方向を見ているのが嫌だった。
ま、まぁ、亘さん、可愛いしな。無表情だから取っ付きにくそうに見えるけど、俺と友達になりたいなんて言うし。わりと物怖じしないというか、人懐っこい、よな……。
――あぁ、まずい。
俺は、亘さんの良いところを知ってしまった。