亘さんは世渡り上手
第二走者、亘さん。
彼女の後ろ姿を見るだけで、どうしてか心が軽くなる。
そっと胸に手を当てれば、心臓はまだ早く動いていた。心はこんなに落ち着いているのに。変なの。
腹も痛くない。
俺は――彼女といれば、前に進めるだろうか。
こんなぐちゃぐちゃした思考なんて捨てて、普通に友達を作って、友達と遊んで、友達と連絡先を交換して。後は……恋人なんかも、作ったりして。
高校生にとってのなんてことないあたりまえを、彼女とだったら作れるだろうか。
今まで父さんだけだった俺の世界に、亘さんを入れてみるのは……どうだろうか?
――それは、『和泉理人』の中だけじゃなくて、俺の中にも。
亘さんが走り出した。相変わらず早い。フォームも綺麗だ。走っているのに、乱れなんて一切感じさせない。ポニーテールがひらひらと舞っていた。
……こっちを向いてほしい。
「和泉くん!」
大きな声で亘さんは俺の名前を呼んだ。腕を引っ張られたかと思えば、急に走り出されて呼吸が乱れる。
でも俺はぼんやりと、穏やかに、亘さんの後ろ姿を眺めていた。